違法伐採とその対策
世界の様々な場所で刻々と森林が失われています。特に、東南アジアの熱帯林では予想をはるかに超える速度で消失中と国連環境計画(UNEP)が警告しており、緊急に手を打たなければスマトラとボルネオの天然熱帯雨林は2022年までに98%が姿を消すといわれています。また、南米アマゾンでは、1時間毎にサッカー場150個分もの森林が消失しているという報告があります。
これら森林消失スピードの加速化の原因として挙げられているのが違法伐採です。国際的な木材需要の高まりを背景に違法伐採は相当量に上り、インドネシアでは伐採木材の73%が違法と推定されています。また、広大なアマゾンでは警察の目が行き届かないため、違法伐採が後を絶たないとのことです。日本でも違法伐採された木材は、原木だけでなく、家具や紙類の形で輸入されています。
違法伐採とは
違法伐採とは、その名のとおり、それぞれの国・地域の法令・条例に違反して森林の伐採を行うことです。所有権や伐採権のない森林の伐採を行う「盗伐」や伐採の許可を受けても許可条件に違反して行われる場合も違法伐採になります。さらに、国・地域の法令・条例に違反した林業施業、森林の用途変換、搬出、加工、取引を含める場合もあります。
おもな違法伐採・違法取引
- 盗伐(所有権や伐採権のない森林の伐採、正規の許可を受けていない伐採)
- 伐採許可量や許可区域を超えた伐採
- 国際条約で保護された樹種など伐採禁止樹種の伐採
- 国立公園や森林保護地域内など禁止地域での伐採
- 書類を偽造した取引
- 密輸
- 先住民等の伝統的権利を無視した伐採
- 森林計画等に定められた伐採量、指定樹種・径級、伐採方法等を守らない伐採
なお、英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)では違法伐採を次の内容で定義しています。
違法伐採は国内法に違反して木材が伐採、輸送、売買される場合に行われる。伐採プロセス自体が違法である場合もあるが、森林へのアクセスを得るための賄賂や保護地域での許可なしの伐採、保護樹種の伐採や制限量を超過した木材の伐採も含まれる。違法行為は輸送中でも行われることもあるが、違法な加工や輸出、税関への不正申告、脱税やその他の義務の回避も含まれる
違法伐採の割合
全世界の森林伐採の15~30%が違法伐採で行われているとされており(※1)、違法行為が広範囲に蔓延していることが推測されます。さらに、国や地域を個別に見てみると、中国、ロシア、熱帯諸国では木材生産の20~90%が違法伐採によるものと推定されています(※2)。特に、日本と木材貿易の関係が深いインドネシアでは、森林伐採の73%が違法であると推定されています(※3)。ロシア政府も問題の認識を示しており、国内で生産される木材の約10%が違法伐採であると推計しています(2006年時点)。具体的な問題として、許可証なしの伐採や許可証の偽造などの不正行為が横行していることが指摘されています。
※1 国連環境計画及び国際刑事警察機構2012
※2 経済協力開発機構(OECD)による取りまとめ
※3 財団法人国際緑化推進センター「緑の地球 85号」平成19年3月
違法伐採が世界的に蔓延しており、特定の国や地域で特に深刻な状況に陥っています。この問題に対処するためには、特定の国や地域だけでなく、国際的な協力のもと効果的な取り組みが不可欠です。
違法伐採が多いとみられている地域
- 東南アジア(インドネシア、マレーシア等)
- ロシア(ロシア極東地域等)
- アフリカ(カメルーン、ガボン、コンゴ等コンゴ川流域)
- ブラジル(アマゾン川流域)
(合法木材NAVIホームページより)
違法伐採による影響
森林の破壊と生物多様性の喪失
森林の違法伐採は、森林の破壊(減少・劣化)をもたらし、同時に森林生態系の破壊等が起こります。例えば、熱帯雨林の降水の半分は同じ森から蒸発した水です。しかし、森林の伐採が進んで降雨量が減れば、残る木々も枯れてしまいます。さらに乾燥により、森林火災も起こるようになり、森林の消失速度が加速します。違法伐採のような無計画な森林伐採は、このような形で森林の破壊を招くのです。
伐採が加速する熱帯林
東南アジアの熱帯の森林の急速な消失によって、オランウータンは絶滅の危機に瀕しています。個体数は、過去100年の間に、およそ90%以上も減少したと推定されています。
絶滅の危機に瀕するオラウータン
20世紀初めに世界に10万頭が生息していたとされる野生のトラは過去100年にわたる森林破壊と狩猟(密猟や違法取引)により、4000頭程度にまで減少していることが推定されています。この間、トラの8亜種のうち、3種が絶滅し、残されている亜種も絶滅に瀕してします。
絶滅の危機に瀕するアームルトラ
生物多様性の減少の原因は、生息地の喪失や断片化、乱獲、外来種の侵入、汚染、気候変動などが挙げられます。その中でも森林の減少や劣化は、生息地の喪失や断片化を引き起こすため、生物多様性への大きな影響を及ぼす大きな要因となります。特に、違法伐採は直接的に森林の樹種構成に影響を与え、生物多様性の減少を引き起こします。
特定の高級樹種などを違法伐採の対象になる場合、その影響はさらに顕著になります。また、違法伐採の標的となる樹木がラミン、メルバウ、ウリン、マホガニーなどの希少樹種である場合、これらの樹種の絶滅のリスクを高める可能性もあります。
森林の減少と劣化
違法伐採は森林の減少や劣化につながる要因となります。例えば、次のようなプロセスが考えられています。
- 開発が進むことで森林へのアクセスが増え、それに伴って違法伐採の発生も増えます。違法伐採が増えると、森林の劣化が進み、森林の経済的な価値が低下します。この結果、森林は他の用途へ転換されたり、森林自体が減少してしまいます。
- 商業伐採やインフラ開発などが行われると、地域経済が変化します。外部資本が流入することで経済が発展する一方、伝統的な森林利用方法や非木材生産物の利用が減少することもあります。これにより、地域コミュニティの監視能力が低下し、違法伐採が行われやすくなります。違法伐採の結果、森林は劣化し、経済的な価値も低下します。その結果、森林は農地など別の用途に転換され、森林自体が減少します。
これらの要因が関連し合って、違法伐採を通じて森林が減少し、劣化していくのです。違法伐採における森林減少・劣化の解決には、持続可能な開発や適切な管理、コミュニティの参画など、適切な土地利用政策や持続可能な林業経営の推進なども含めた幅広い対策が必要です。
持続可能な森林経営を阻害
G8各国が合意した森林行動プログラムでは、違法伐採は、「国および地方政府、森林所有者および地域社会から重要な収入と便益を奪い、森林生態系に被害を与え、木材市場と森林資源の評価を歪め、持続可能な森林経営を阻害する要因として機能する」と論じられています。
違法伐採は木材生産国の経済面にも大きなマイナス影響を及ぼすのです。具体的には、違法伐採された木材が流通することで、木材市場価格が引き下げられ(※3)、その国の木材収入や税収の損失という形で現れます。 また、不当に安い木材が国際的に流通すると、持続可能な森林経営(※4)のもとで生産された木材の流通が阻害され、悪影響は、その国だけでなく全世界に及びます。さらには、ゲリラ・テロ組織への資金供給などの可能性も指摘されています。
日本では、違法伐採が指摘されている国々からも木材や木材製品を輸入しています。木材輸入国として責任ある取組を行うことが求められています。
※3:全米林産物製紙協会(AF&PA、2004年)は、違法伐採された木材・木材製品は世界の木材流通価格を7~16%も押し下げていると報告しています。
※4:持続可能な森林経営とは、目前の利益追求のみに意をおく経営ではなく、貴重な森林資源を次世代残すことができるような経営のこと。伐採許可を得た者が森林の回復(更新=伐った場所に植えて、育てること)に責任を持つため、森林の減少する割合が著しく低くなります。
地域文化・住民生活の破壊
森林は、地域の住民に、薪などの燃料や木の実や動物などの食料を提供し、さらには水源や土壌を保全するという大きな役割を果たしています。世界の人々、とりわけ先住民族にとっては、森林は食料の貯蔵庫であり、生活の糧を森林資源に大きく依存しており、生活の場として欠かせないものです。今でも狩猟採集で生計を立てている人々もいます。また、森林は地域文化や宗教を育んできました。違法伐採では、このような森林の伝統的な利用の慣習的な権利が無視されるため、罪のない地域住民の生活を破壊したり、生活の変貌を迫ることにもなります。
熱帯雨林の子供たち
写真:mongabay.com
このように、森林の減少は生物多様性の喪失(生物の絶滅の危機)だけでなく、森林に依存して暮らす地域住民の生活や文化の破壊、また気候変動(地球温暖化)の原因にもなっているため、世界が取り組むべき課題として持続可能な開発目標(SDGs)の中にも位置づけられています。
違法伐採に対する取組み
国際社会の取組み
1998年のG8外相会合及び首脳会合(英国)では、世界の森林に関する行動計画である「G8森林行動プログラム」が合意され、2002年には違法伐採対策を含む最終報告書が取りまとめられました。2005年のグレンイーグルズ・サミットでは、G8各国が最も効率的に貢献できる分野において、行動することにより、違法伐採対策を推進することが合意ました。このような経緯を経て、違法伐採問題への対応の機運が高まり、各国で関連法の制定が進められました。
日本政府の取り組み
日本政府は、1998年に英国で開催された「バーミンガム・サミット」では、世界の森林に関する行動計画である違法伐採対策を含む「G8森林行動プログラム」に対して合意しました。その2年後の2000年には「G8九州・沖縄サミット」が開催され「違法伐採された木材は使用しない」という基本方針のもと、その後、一貫して違法伐採問題を重要視してきました。さらに、2005年7月の英国で開催された「グレンイーグルズ・サミット」では、グリーン購入法(※5)を用いた政府調達により、違法伐採対策に取り組むことを表明しました。
2006年2月、地球規模の違法伐採問題に対処するため、林野庁は「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」を作成し、国内外に公表しており、これにもとづく供給体制の整備を進め、同年4月からはその一環として、政府調達においては、木材・木材製品は「合法性」「持続可能性」が証明されたものを優先的に購入しなければならない(※6)、という措置を新たに導入しました。
(※5)グリーン購入法は、国(国会、各省庁、裁判所)や独立行政法人、地方公共団体など、政令で定められている公的機関が、率先して環境への負荷が少ないものを選んで購入することを定めた法律です。一般の消費者にもできる限り、環境に配慮したものを選ぶ努力を求めています。具体的な対象物品としては、製材、集成材、合板、単板積層材、パーティクルボード゙、繊維板、木質系セメント板、紙類、文具類、机、ベッドフレームなどが挙げられています。
(※6)合法性、持続可能性の確認方法として、次の3つが提示されています。
(1)森林認証(FSC、PEFC、SGEC等)を活用する方法
(2)業界団体の認定を受けた事業者が証明する方法
(3)事業者独自の取組みにより証明する方法
2016(平成28)年の伊勢志摩サミットに向けて、政府はさらなる対応策を発信するために、合法的に確認された木材の利用を促進するための議論が盛んに行われました。その結果、「クリーンウッド法(※7)」として知られる法律が、翌年の2017(平成29)5月に施行されました。この法律は、合法的に伐採された木材などの流通と利用を促進する(原産国の法令に適合して伐採された木材と木材製品の流通と利用の促進を図る)ことを目的としています。この法律の施行により、政府調達だけでなく、全ての事業者(企業・団体等)に、合法的に伐採された木材を利用することが求められるようになりました。
さらに、2023(令和5)年4月「クリーンウッド法」の一部を改正する法律が成立しました。この改正では、違法伐採と関連する木材の流通を抑制するため、川上・水際の木材関連事業者に対し、譲受け等をする木材等について、合法性の確認等を義務付けるなどの対策が新たに導入されました。
(※7)クリーンウッド法の正式名称は「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」です。
民間企業の取組み
民間企業でも違法伐採に反対する態度を表明するとともに、違法伐採対策を進めるため、独自の木材調達方針を掲げるなど、違法伐採への対策が積極的に進められています。
フェアウッドとは、環境に配慮し、社会的な公正(違法性のない)木材のことです。NGOや公益団体が2003年より実施している「フェアウッドキャンペーン」では、世界に残された貴重な森林生態系を保全し、持続可能な森林経営を支援するため、社会全体で取り組みを進め、フェアウッドの利用を消費者や企業などに呼びかける活動を行っています。
木材は、石油や石炭など、いずれは枯渇する資源とは異なり、樹木の生長量などを考慮し、適切な使い方をすれば、再生可能資源として永久的に使うことができます。生態系や地域住民に配慮して、合法性が証明された木材を使用することで、世界の森林保全に貢献できます。
〔参考文献・出典〕
日経ビジネス「消えゆく世界最大の森林」/財団法人国際緑化推進センター「緑の地球 85号」平成19年3月/WWFジャパン/JITAN 熱帯林行動ネットワーク/環境省自然環境局自然環境計画課「世界の森林は刻々と減少しています」「世界の森林を守るために」/環境省地球環境局・社団法人全国木材組合連合会「違法伐採から森林を守るために」 / 一般社団法人全日本木材市場連盟HP /
グリーンピースジャパン・国際環境NGO FoE Japan・・財団法人地球・人間環境フォーラム・熱帯林行動ネットワーク「森林生態系に配慮した木材調達に関するNGO共同宣言」 / フェアウッドキャンペーンパンフレット「森林を破壊しない、選択 フェアウッド・キャンペーン」「森林の見える木材ガイド」 / 合法木材ナビ