炭焼き(木炭づくり)は、日本の山村にはるか昔から伝わる伝統的な技術です。考古学によると、新石器時代(約1万年前)の頃から木炭が用いられていたと推定されており、弥生時代には鉄器づくりのために木炭がさかんに生産されるようになりました。奈良時代には、大仏をつくるために大量の炭が使われました。平安時代にはすでに用途別の炭がつくられ、そして、昭和30年代ころまでは、木炭は、暖房、炊事用などの燃料として、生活に欠かせないものした。
炭焼き小屋
しかし、高度経済成長期に、燃料革命が起こり、使い勝手の良い電気、灯油、ガスなどの燃料に取って代わられ、木炭は、ほとんど使われなくなりました。
ところが最近、再び木炭が脚光を浴びています。日本人の生活の高度化、多様化が進む中で、グルメ志向、レジャーなどで木炭が利用されるようになったのです。さらに、木炭の持つ独特の性質も科学的に明らかになり、その価値が見直されるようになってきました。
赤外線の効果により美味しくなる
木炭はうなぎ屋さんや焼肉屋さんなどで燃料として見直されてきています。直火で調理する場合、炭火で焼くと美味しくなるからです。これは、炭が燃焼する時に発する赤外線(近赤外線と遠赤外線)による効果です。もともと赤外線は、食品に吸収されて食品を温める性質があります。近赤外線は食品表面に焦げ目をつくって旨味成分を密閉します。同時に、遠赤外線の高い加熱効果により内部から食品を温め、タンパク質を分解して旨味成分のグルタミン酸などを生成します。
そして、焼き物調理では、ガスの炎が水分を含むのに対し、木炭は水分を含まないため、カラッとしたパリパリ感のある焼き上がりとなります。
炭から発する赤外線は電磁波なので、炎のように上部だけに熱を伝えるのではなく、四方八方に赤外線を放射するので、風などの影響を受けることなく、真横や真下にある食材も焼くことができます。また、食品内部まで熱を通すことができ、木炭は自然素材の電子レンジと言えるでしょう。
木炭を網に入れ、汚れた湖や沼、河川に敷き詰めておくと水が浄化されます。身近な例としては、家庭のキッチンで使われる浄水器にも活性炭が入っています。これらは木炭の「多孔質」と呼ばれる性質によるものです。
木炭の顕微鏡写真(林野庁HPより)
木炭には、無数の微細な孔があります。単なる塊であれば、表面に見えている部分が表面積になりますが木炭は孔が多い分、表面積も著しく大きくなります。木炭の場合、たった1g(ピーナッツ程度の大きさ)で200~300m2(たたみにして150畳)になります。その表面に多くの物質を吸着し、驚異的な浄化効果を発揮するのです。
木炭には消臭効果、調湿効果がある
木炭の「多孔質」による物質吸着効果はさまざまなところで活かされています。冷蔵庫の中に入れる脱臭商品でも活性炭が活躍しています。また、住宅の床下の湿度調整、室内の消臭、有害化学物質の吸着等に効果を発揮します。微細な穴は、微生物の住み家となり土壌改良など、農作物の生育を助ける働きもします。
〔参考文献・出典〕
林野庁ホームページ/図説「木のすべて」(大日本図書)/炭を使う知恵(川辺書林)/社団法人全国燃料協会・日本木炭新用途協議会「木炭の新しい使い方」