森林と海の関係 - 森・川・海のつながり

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豊かな森は豊かな海を育む

豊かな森は豊かな海を育む

豊かな森は豊かな海を育む


「豊かな森林は豊かな海を育む」という言葉は、昔から伝えられてきました。その理由は何でしょうか?
実は、森林と海は密接につながっているのです。森林は河川を通じて海につながっており、山からの水の流れによって栄養分や有機物が海に供給されます。この供給された栄養分が、海洋生態系の豊かさや漁業資源の形成に大きく寄与しているのです。

昔から漁業者たちは、海の近くに広がる森林が魚を集める場所であることを知っていました。そのため、彼らは海の近くの森の保全に取り組んできました。神社を建てて立ち入りを制限したり、藩が伐採を禁じるなどの措置を講じました。これにより、海の近くの森が守られ、魚の生息地となり続けました。

そして現在でも、全国で約5.8万ヘクタールの森林が「魚つき保安林」として指定され、伐採の制限などの保護措置が行われています。これによって、海洋生態系や漁業資源を守るために重要な役割を果たしているのです。

このように、森林と海はお互いに密接に結びついており、森林の保全が海の豊かさを支える重要な要素なのです。私たちも森林と海洋環境の大切さを理解し、その保全に取り組むことが必要です。

魚つき保安林

魚つき保安林の写真

 

海洋生態系を保護する「魚つき保安林」は、海岸沿いに位置し、直射日光を遮り、生物の多様性が高まる沿岸域の海水温上昇を抑制します。さらに、河川を通じて海に豊富な栄養分を供給し、プランクトンの増加を促し、魚の繁殖に適した環境を創り出します。これによって、私たちの社会に利益をもたらす森林の公益的機能が維持されます。

※保安林とは…森林には土砂災害を防止したり、浄化された美味しい水を供給するなど、私たちの社会に利益をもたらす機能(公益的機能)があります。森林の持つ公益的機能を維持するために、開発や伐採に制限を加えるなどして、守られている森林を「保安林」と呼んでいます。

02/06

海の生物の7割は沿岸域で生息している

海中林では陸上の森林と同じように豊かな生態系が成り立っている

海全体に生息する生物(魚介類、海藻、プランクトンなど)の70%が、陸地に沿ったわずかな領域、つまり沿岸域(水深50m程度までの海域)に生息しています。その範囲は海全体のわずか0.6%しかないのに、河川から栄養分が流れ込み、プランクトンや海草などが生み出す食物連鎖が、驚くほど豊かな生態系が成り立っています。

沿岸域の生態系には、海中林と呼ばれる海藻の森があり、陸上の森林と同じようにさまざまな生物の生息の場となっています。陸上の植物と同じように、プランクトンや海藻が成長するためには、窒素とリンが不可欠です。これらを吸収するためには、体内の鉄分の働きが必要です。しかし、プランクトンや海藻は鉄分を鉄のまま取り込むことができません。「フルボ酸鉄」という物質(鉄の化合物)になってはじめて取り込むことができます。

ちなみに、私たち人間にとっても、鉄は血液中で酸素運搬を担っており、鉄なしでは生きていけません。

※海の生態系を支える栄養分は窒素、リン、ケイ素、鉄の4物質です。河口付近では、森から川を通じてもたらされる四つの栄養分の比率や量の違いで、沿岸の海の生態系に多様性が生じるといわれています。

03/06

森林と海を結ぶ「フルボ酸鉄」

陸上の森林の林床(地面)には、落葉、落枝などが多くあり、これらが微生物によって分解され、鉄分などさまざまな鉱物と混合して森林土壌(腐葉土層)ができています。森林土壌(腐葉土層)ができる過程では、フルボ酸という物質ができます。

森林土壌中では、このフルボ酸が鉄と結合して「フルボ酸鉄」と呼ばれる物質が生成されています。「フルボ酸鉄」になれば、プランクトンや海藻が吸収することができます。

この「フルボ酸鉄」は河川を通って海に運ばれます。河川には海の100倍から1000倍の鉄が含まれています。海に運ばれた「フルボ酸鉄」はプランクトンや海草に吸収されるとプランクトンや海草は窒素やリンを取り込んで成長することができるようになります。こうして、豊かな森林から流れ出る河川がたどりつく海も豊かな海になります。

04/06

森林が手入れされないと漁獲量が減る

しかし、間伐(※)などの手入れがなされず、森林が荒廃していると事情が違ってきます。手入れされない森林は光が届かない暗い森となり、下草が生育せず、地表の落枝や落葉が分解されるまえに、腐葉土層とともに流れ出てしまいます。腐葉土層がなくなると、プランクトンや海草に必要な「フルボ酸鉄」も生成されず、豊かな海の生態系も失われてしまうようです。また、急激に腐葉土層が流れ出すと、河口付近が土砂で埋まり、ヒラメなど河口付近に生息する生物が死んでしまいます。

※間伐… 育成林(人工林)の木々が成長し、お互いに成長を阻害しないよう一部の木々を抜き伐ることにより枝葉を広げる空間をつくり、残された木々が健全に成長できるようにすること。畑作の「間引き」と似ています。

かつて、北海道の襟裳岬では、過度に森林が伐採され、下流の海では、コンブが枯死し、漁獲は減少していきました。そこで、人々は木を植えて森林を甦らせてきました。今では、海も甦り、コンブが生育できる豊かな環境が戻っています。緑化の経緯はNHK番組プロジェクトX「えりも岬に春を呼べ~襟裳岬の森林植林活動」でも取り上げられました。

このように豊かな森林は豊かな海を育みます。この森林が海に供給するフルボ酸鉄やその他の元素や栄養塩を人工的に供給しようとすると年間何十億円もかかると試算されています。

05/06

森の再生で蘇った海・豊かな森が育んでいる海

森林は海に栄養分を供給するだけでなく、沿岸の森は直射日光を遮断し、水温の急激な変化を防いだり、風波を防いだり、水を清く保つなど、海の生物の繁殖環境を整えています。

名称 所在地 備考
襟裳岬 北海道 明治時代の開拓で森林伐採で砂漠化。表土の砂は強風で飛ばされ海が黄濁。沿岸ではコンブが根腐れを起こし、サケ・マスも姿を消した。その後の植林で1999年末にほぼ再生。
尻屋崎 青森県 海岸の砂丘化による飛砂の影響で、海藻やウニなどの資源が減少。明治45年、若い漁業者を中心に植林活動が開始。60年以上の歳月を費やし、岬の一帯には豊かな海が再生。
虫明湾 岡山県
平成8年落雷によってカキ養殖産地の虫明湾を望む山林の大半が焼失。周辺の漁業者は、自主的に植樹活動をはじめ、9年経過した今日、豊かな魚つき林が復活。
真鶴半島 神奈川県 江戸時代、小田原藩による植林が始まり。漁師の間で魚の集まる森として大切に守られてきた。真鶴半島を取り囲む定置網群は森の恩恵を物語っている。
鮭を呼ぶ森 新潟県 鮭のまちとして有名な村上市の三面川河口にある多岐神社の森。通称「お多岐さまの魚つき林」。タブノキやヤブツバキが鮭の命を育んでおり「鮭を呼ぶ森」として親しまれている。
安戸池海岸林 香川県 緩やかな丘陵地帯にあり、瀬戸内海国立公園の自然美の一部として、また、魚つき保安林として大きな役割を果たしている。 散策やドライブなどを楽しむことができる。
池ヶ原湿原周辺(参考) 岐阜県 こちらは海ではなく、河川の生態系の保全。飛騨の池ヶ原湿原周辺の森林を今年の6月2日に魚つき保安林に指定。イワナなどの魚類が生息する清流のさらなる保全が目的。
06/06

うみのパイロットさん - やまとうみはともだち-

一般財団法人海技振興センターでは、水先人(うみのパイロットさん)の養成を支援する活動を行っておいます。最近では幼少期における良き原体験となるよう水先人や海運・船員さんを紹介するための絵本と動画を作成し、各方面に配布しています。これまで発行してきた3冊は主に海運や運河等、海に関係する内容が主でしたが、今回の第4作目では「やまとうみはともだち」と題して、山と海の栄養の循環及び海洋環境保護の重要性も伝えています。

動画:一般財団法人海技振興センター「うみのパイロットさん(第4作)」

〔参考文献・出典〕
●林野庁HP  ●水産庁HP ●水産庁「水産白書」、「海の森」、「里海づくり」●全国林業改良普及協会「水を育む森、森を育む水」●岐阜県HP ●新潟県HP ●「河川を通しての陸から海への物質輸送」長尾誠也(北海道大学大学院地球環境科学研究科)●読売新聞「森との共生・襟裳岬に緑戻す」●森と海の共生ネットワーク「森と海を結ぶフルボ酸鉄に関する研究」


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