日本の春の象徴「桜」
サクラ(桜)は、バラ科の落葉広葉樹で、春に美しい花を咲かせる木として知られています。北半球に広く分布しており、日本では特に親しまれています。サクラの特徴としては、やはり一斉に咲き誇る花が美しい花を咲かせることでしょう。一重または八重の花でピンクや白など様々な色を持っています。サクラは春の象徴とされ、花見は日本の文化となっています。また、サクラは落葉樹であり、秋になると葉が紅葉して美しい景色を見せてくれます。日本人にとってサクラは特別な存在であり、春の訪れを告げる大切な木として愛されています。桜の花の美しさと季節の移ろいを楽しむため、多くの人々が桜の名所を訪れます。
サクラの木材は心材が赤褐色で滑らかな表面を持ち、家具や彫刻などの高級な材料として利用されています。また、サクラの分類は少しややこしい面もありますが、一般的にはスモモ属(Prunus)またはサクラ属(Cerasus)とされています。
日本に溶け込んでいる桜(サクラ)
桜(サクラ)は日本の春の象徴、文化や旅立ちの象徴となっています。学校や大きな駅の近くの公園などに植えられていますし、地名や人名、会社名、学校名や校章などにも多く「桜」が使われています。皆さんも家族や友達と桜をバックに写真を撮ったなど、それぞれの胸に思い出があるのではないでしょうか。
桜は日本各地の風景に溶けこんでいるとともに、日本人の心の奥深くまで、溶けこんでいるようです。
日本の風景に溶けこむ「桜」(福島県花見山公園)
サクラは、何故こんなにも品種が多いのか
日本には非常に多くの桜(サクラ)の品種があります。その数は300~400種以上。世界各国にある桜の品種のうち、今や日本にない桜はないといわれるほど、日本は桜の宝庫です。
多摩森林科学園のサクラ保存林には、全国から収集した約250種、1500本の桜が植えられています。2月下旬から5月上旬にかけて順次見頃を迎えます
もともと日本には、ヤマザクラやオオシマザクラ、エドヒガンなど九品種しかありませんでした。日本で桜の品種が多くなったのは、古くから日本人がいろいろな掛けあわせをしたからです。例えば、ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの交配により生まれたものです。
また日本人は昔からサクラを愛し、山で珍しいサクラを見かけると、持ち帰って栽培したようです。さらにサクラは異なる品種を掛けあわせることができる性質も、品種の増大に拍車がかかりました。
このように日本人はサクラの性質を利用して、さまざまな品種を誕生させてきたのです。言わば無名の育種家たちの趣味・興味の成果なのです。その意味では、サクラは「日本の文化の象徴」とも言えるでしょう。
エドヒガン
現在の日本でもっとも知られている桜は「染井吉野」ですが、日本にはもともと9種の桜が存在しました。その中でも、ヤマザクラと並んで古くから美しい花を楽しむために愛されてきたのがエドヒガンです。エドヒガンは彼岸の時期に咲くため、かつては「彼岸桜」とも呼ばれていました。しかし、同じく彼岸の時期に咲く品種の「小彼岸」と区別するために、「江戸」の名前がつけられました。関西では一般的に「小彼岸」が植えられていましたが、関東ではエドヒガンが人気でした。エドヒガンは大きな木に成長し、長寿を保つ性質を持っているため、岐阜県の「根尾の薄墨桜」や山梨県の「山高の神代桜」など、天然記念物に指定された古木も多く存在しますが、山の中でまとまって自生しているエドヒガンを見ることは稀です。
ソメイヨシノが一斉に咲く理由
ところで、サクラと言えば「ソメイヨシノ」を指すことが一般的なくらい、ソメイヨシノは多く植えられています。そのルーツは、江戸の植木屋さんが、交配により育てたたった1本のサクラでした。サクラには「自家不和合性」という性質があり、ソメイヨシノどうしでは交配できません。また、他のサクラと交配した場合、他のサクラの遺伝子が入ってくるため、ソメイヨシノのような優れた形質は受け継ぐことはできないのです。つまり、ソメイヨシノでなくなってしまうわけです。
そのため、ソメイヨシノは、人の手を介した接木や挿し木などで増やす方法以外にはありません。その意味では、ソメイヨシノは「人との共存を選んだサクラ」と言えでしょう。接木や挿し木などで育てると遺伝子が同じ、言わば「クローン」になります。そして、遺伝子が同じなら、環境条件が整えば一斉に咲くことになります。そのおかげで、私たちは満開のサクラが一斉に咲き乱れる美しい景色を見ることができるのです。
特定の環境条件になると一斉に咲くソメイヨシノ(角館 桧木内川)
さくらの開花と生物季節観測
春になると発表される「さくらの開花」や「満開」の情報は、実は気象庁が行う「生物季節観測」の一環です。この観測の目的は、長期間にわたる気候変化や、季節の進行具合を把握することです。さくら以外にも、うめやあじさいの開花、かえでやいちょうの紅葉・黄葉、すすきの開花、落葉なども観測対象です。
生物季節観測は、各地の気象台が決めた「標本木」を使って行われます。たとえば、さくらの開花日は標本木で5~6輪以上の花が咲いた最初の日で、満開日はつぼみの約80%以上が咲いた最初の日を指します。
サクラの分類
サクラの分類は少し複雑です。サクラは大きなグループであり、Prunus属として分類されると、サクラ、スモモ、ウメなど約400種類が含まれます。一方、Cerasus属として分類すると、ヤマザクラやセイヨウミザクラ(食用のサクランボ)などの約100種類のみが含まれます。しかし、どちらの分類を使っても間違いではないとされています。
日本には野生種のサクラが10種類しか存在しないと言われていますが、栽培品種は約100種類もあり、それぞれ異なる名前がつけられています。これらの品種には遺伝的な関係も明らかにされています。
木材としてのサクラ
サクラの木材は、昔の江戸時代では特にヤマザクラがよく利用されました。一般的に、サクラ材は美しい赤褐色の心材を持ち、滑らかな表面を特徴とし、適度な硬さがあるため、高級な家具や彫刻用の材料として高く評価されてきました。江戸時代の木版画の版木にも主にツゲとヤマザクラが使われていました。
北海道のエゾヤマザクラもサクラ材として使われることがありますが、量は少なく、正確な名称はオオヤマザクラ(Cerasus属)であり、ヤマザクラとは異なる種類です。また、北日本ではシウリザクラもサクラ材としてよく使われており、窓枠や床板などに利用されています。サクラ材には、他のバラ科のPadus属(ウワミズザクラ属)に属する木も含まれていますが、一般的にこれらもサクラ材として流通しています。サクラ材は良質で希少なため、市場では人気があります。
ただし、中には本当のサクラ材とは異なるものも存在します。例えば、カバザクラという材は本来のサクラとは別の木です。カバザクラという名前は栽培品種としては存在せず、一般的には北米や中国から輸入されたカバノキ科のカバ材(Betula属、カバノキ属)の加工品が「カバザクラ」として販売されることがあります。これらはサクラ材ではなく、別の樹木の材料です。
気候変動(温暖化)が進むと、桜は・・・
桜は、夏に次の春に咲く花芽をつけます。その後、それ以上は成長しないように「休眠状態」に入ります。夏から秋となり、そして冬に気温が3℃から10℃の状態に60日程度さらされると、休眠から覚めて、成長をはじめます。いわゆる「休眠打破」です。暖冬や寒冬では、休眠打破が中途半端となるのです。例えると「ねぼけまなこ」のような状態。狂い咲きをしたり、咲かなかったりという現象が起こるといわれています。
ところで、温暖化が進むと桜の開花はどうなるのでしょうか。観測史上最も暖冬だった2007年は、全国的に開花が早まり、南九州や八丈島などの暖地では、極端に開花が遅れました。
九州大学の伊藤久徳教授がIPCCの報告をもとに、桜の開花のシュミレーションを行ったところ、今世紀末には、東北地方で開花が2~3週間早まり、九州などの温暖な地域では、1~2週間遅くなる。また、種子島や鹿児島西部では、桜は全く開花せず、九州・四国の一部の地域や、長崎県や静岡県では、開花しても満開にはならないと予想されました。
日本の春の象徴である「桜」。そして、日本人の心に深く溶け込んでいる「桜」。気候変動により、桜が咲かなかったり、狂い咲きをすることは、とても残念なことではないでしょうか。美しい自然や日本の四季を守れるよう、地球温暖化をはじめとする環境に対する取組みがさらに活発化していくことを願っています。
〔参考文献・出典〕
木材・合板博物館「PLY VOL.25 SUMMER」など