白樺(シラカバ・シラカンバ)
カバノキ科カバノキ属
福井、岐阜、静岡各県より北の海抜の高い地域(600~1600m)、北海道では海抜0~700mの地域
シラカバは、若樹の樹皮の白さが美しく、明るい高原のイメージをつくるため「高原の白い貴公子」とよばれます。春の新緑、秋の黄葉・紅葉ともに美しく、好印象を持たれる樹木のひとつです。歌謡曲で歌われた北国をはじめ、リゾート地や都会の庭でもよく見かけます。樹皮が雪のように白いため「シラカバ」とよばれますが、標準和名は「シラカンバ」です。
高原を象徴する
白い貴公子「白樺」
新緑の時期には黄金色の穂
(雄花序)が垂れ下がる
葉はほぼ三角形状の広いたまご
型。ややくすんだ緑色
樹皮は紙のように薄くはがれ
やすい
白樺(シラカバ、シラカンバ)はカバノキ科力バノキ属の落葉樹で、樹高は20mほどになる高木です。陽樹で日当たりの良い裸地などではすぐに群生して、多くの場所で目にすることができます。寒冷地を好むため、北海道では低地で普通に見られますが、本州では山地で多く見られます。
若い白樺の樹皮は白さが際立ち、山地の清々しい景観をつくり、晩秋には黄葉~深紅色に紅葉し、その風景の美しさで人々を魅了しています。
木材としては今一歩のシラカバ
材は柔軟なため、観光地の細工品や楊枝・割箸などが作られる
高原の美しい景観をつくる白樺(シラカバ)ですが、材としての評価は高くありません。
一方、同じカバノキ科カバノキ属にウダイカンバがあり、家具あるいは建築の内装用としては高級材であるため「真の樺=マカバ」とよばれます。また、同科・同属のミズメもウダイカンバほどではありませんが、利用価値はあり、マカバに対して「雑樺=ザッカバ」とよばれます。ダケカンバはウダイカンバやミズメほど利用価値はありませんが、それらの代わりに使われることがあるので「代樺=ダイカバ」とよべるでしょう。
しかし、シラカバは、材質が柔軟であるため利用価値は低く、せいぜい、民芸品か割箸、楊子、アイスクリームのスプーンなど、低質材として扱われてきました。但し、最近では、シラカバの資源量(蓄積量)が増加しており、生長も早く、材が白っぼく美しいことなどから合板用材として見直されるようになりました。
白樺は開拓者
シラカバの種子は親木の下に落ちたら生長できない。しかし、翼がついているため、風に乗り遠くへ飛ぶことができる。
伐採跡地や山火事跡、雪崩道などの裸地では、日差しが強く侵入できない樹種もありますが、シラカバはそのような地にいち早く進入し、真っ先に緑の森へと変えくれます。このような樹種を「先駆樹種=パイオニアプランツ」と呼びます。
シラカバのように強い陽光のもとで育つ木は陽樹とよばれ、成長は速いのですが、寿命は短く、数十年です。短い寿命を全うしたシラカバは倒れ、朽ちていき、次の世代の養分となっていきます。
シラカバは、陽樹であるがゆえに、その場に種子を落としても自らが林を形成しているので、地面に光が当たらないため、シラカバ林では、なかなか子孫が育たないのです。そのためミズナラのような日陰でも育つ陰樹とよばれる樹種が次の世代を担い、豊かな森へと遷移していきます。
貴公子の衣は鉄壁の鎧
カバノキ科の植物の総称を「樺(カンバ)」と呼び、シラカバは樹皮は白いことから「白樺(シラカンバ)」とよばれます。また「樺(カニワ)」とは、昔、舟に巻いたり、器に張ったりした樹皮のことを意味することもあります。
白樺の代名詞ともいえる白い樹皮は、北海道の方言では「がんび」とよばれ、燃えやすいのでストーブの焚き付けとして用いられてきました。
シラカバの樹皮にはベチュリンとよばれる抗菌効果のある物質が含まれており、倒木して材は腐っても樹皮は残ります。このベチュリンという物質は、抗菌効果の他、殺シロアリ効果、ヘルペスウイルス(皮膚や粘膜の炎症、脳炎を引き起こすウイルス)の増殖抑制効果などがあるとのことがわかっています。さらにベチュリン酸には発癌を促す物質の抑制効果もあり、医薬品原料としての利用も計画されています。
シラカバの樹皮は、見た目には「貴公子の衣」ですが、実は外敵から身を守る鉄壁の鎧なのかも知れません。
白樺の樹液は天然の医薬品
白樺の樹液は果糖やブドウ糖などの糖分やミネラル分を多く含むので、葉が芽吹く前の春に樹液が採取され、飲料として商品化されています。白樺の樹液は、透明の水のように見えますが、ほんのり甘く、身体に溜まった毒素や老廃物を体外に排出したり、抵抗力を増加させるはたらきがあるため、天然の医薬品ともいわれています。
〔参考文献・出典〕
独立行政法人森林総合研究所 大平辰朗 「 林産物の機能性成分に関する研究動向」/学習研究社「日本の樹木」/日本木材総合情報センター「木net」