渓流の貴婦人・ヤマセミ (ブッポウソウ目 カワセミ科)
渓流の貴婦人・ヤマセミ
山地の谷や渓流、湖沼に住むカワセミの仲間にヤマセミがいます。昔から一沢一番(つがい)といわれるほど数が少なく、またとても警戒心の強い鳥で、なかなかその姿を目にすることの難しい鳥です。沖縄を除く日本全国に棲息し、冬には低山の河川や海岸近くでも見られることがあります。
全体的(頭部や翼、尾)に白と淡黒色の美しい鹿の子模様をまとっているため、「鹿子翡翠(かのこしょうびん/かわせみ)」と呼ばれることがあります。頭に長い羽の付いた冠をかぶったような姿が印象的で、その清楚な姿は、いわば「渓流の貴婦人」です。雌雄で微妙に色合いが異なっており、オスは白と茶を、メスは白と黒を基調にしており、特に雄は胸のあたりに橙褐色の羽が混ざっています。全長は約38cmで概ねハトほどの大きさです。飛びながら「キャラッ、キャラッ」とよく鳴きます。
※ヤマセミは「鹿子翡翠」の他「山翡翠」、「山魚狗」と漢字表記されます。
ヤマセミの主な食べ物は、渓流に住む20センチほどのヤマメやイワナ、オイカワなどの魚ですが、どの魚も警戒心の強く、すばやく行動するので、捕らえるのは至難の業です。一つの沢を独占するほどの広い縄張りが必要なのは、このためかも知れません。渓流や湖沼の崖に突き出た枝の上などに止まって魚を探し、獲物を見つけると急角度で水中にダイビングして嘴で獲物を捕らえます。また、飛翔中(ホバリング中)に突然ダイビングすることもあります。魚類の他、カエル、カワガニ、昆虫なども食べます。
ヤマセミはカワセミと同じく、川岸の土手や土の断崖に深さ1メートルほどの横穴を掘って、営巣します。細かい土が敷かれた上に4~7個の卵を産み、子育てをします。
※抱卵日数は約20日。巣立ちまでの日数は32~36日
この変わった繁殖方法が災いして、近年の護岸工事や砂防堰堤工事などで巣穴の掘れる土の川岸を失い、特に川の上流部で急速に数を減らしています。それとは反対に、川の中流部では最近、自然工法が取り入れられるようになり、しだいに川岸のコンクリートか取り除かれて昔ながらの土の土手が戻ってきています。これを機会に、本来は上流に暮らすはずのヤマセミが中流へと移動をし始めているのです。中流では、食べ物の魚の量は増え、漁は楽になりますし、人目につくことも多くなり、次第に警戒心が薄れてきているようです。
カワセミの姿を目にする機会が増えたのはありがたいことですが、上流部の本来の自然がも取り戻されて、昔ながらの凛々しい姿も見てみたいものです。