クマによる被害増加の原因
ヒグマ(国内では北海道のみ) 体長200~230cm。体重150kg~250kg程度
私たちの身の回りで、クマによる被害が増加しており、1990年頃から、クマの出没による農作物被害や人身被害が増加傾向にあります。特に人身被害では死傷者も少なくなく、深刻な問題となっています。
※2023年7月には、北海道で「OSO(オソ)18」と呼ばれるヒグマが乳牛66頭を襲った事例が報道されました。同年の秋になると、各地でツキノワグマによる人身被害が増加し、2010年の150人に対して2023年は217人(環境省速報値)となりました。
クマによる被害増加の直接的な原因は、ブナの実やドングリが凶作~大凶作になったとき(年)に、カキなどの果物や残飯などの代替食物が存在している人々の住む地域に出没するからです。特に、冬眠前の時期に食べ物を求めて人々の暮らす地域に出てくることが多くなっています。
クマは雑食性で、季節ごとに異なる食べ物を摂取します。春は山菜や樹木の新葉、夏は植物の葉やイチゴ、蜂蜜、アリなどの昆虫が主な食物です。秋にはドングリや木の実、一部ではサケなどを摂取しますが、特に冬眠に入る前の飽食期にはドングリ類を多く摂取してエネルギーを蓄える必要があります。そのため、堅果の凶作が影響を与えることが大きく、クマによる被害が増える年はこれらの凶作の年と重なります。
もう一つの原因は、里山を含む農山村の環境の変化が挙げられます。特に、人口減少に伴う耕作放棄地が増加や里山の荒廃などにより、鳥獣の生息域が拡大し、その影響が農山村だけでなく、都市周辺部まで広がっています。
かつて、クマは狩猟の対象とされおり、奥山で暮らしていました。戦後、奥山の伐採が進んだ時期は生息数が最も減少し、絶滅が危ぶまれ、他の獣類と共に「保護」の対象となりました。その後、農山村の状況が変わり、クマはかつてのように銃や犬に追い立てられず、人間の音にも慣れて昼間にも行動し、カキやクリ、残飯などの食べ物の存在を学習し、安心して人々の住む地域に近づいて生活するようになりました。それでも保護の方針は変わっておらず、クマの生息数は増加し、生息域も拡大しているのです。これにより、都市周辺の森林に住む、いわゆる「アーバンベア」が増え、人々との接触の増加とともに被害も増加しています。
クマ類の管理は法律に基づいて行われていますが、他の動物に比べても大型であるクマが人に危害を加える可能性があり、死傷事故も起こっているため駆除せざるを得ないのが現状となっています。シカやイノシシに次ぐクマによる被害に対する対策は、防災上の課題ともなっています。
農林中央金庫森林部 ぐりーん&らいふ 2023年冬 太田猛彦氏(東京大学名誉教授)/環境省「クマ類による人身被害について」