木材の調湿性とは木材が室内の湿度の変化を緩和してくれる性能。電力を使用量を抑えつつ、健康で快適な空間を創出することができます。
日本の大半の地域では、夏は高温多湿のジメジメで蒸し暑くなり、冬はカラカラに乾燥します。そして、私たち現代人は、エアコン(空調機)等を使用して、室内の温度や湿度を適度に調整し、季節によらず快適な環境で生活しています。
しかし最近では、環境に対する配慮等の理由で、国全体での節電が求められるようになりました。資源エネルギー庁の推計では、夏季の一般家庭における昼間の消費電力のうちエアコンが占める割合は6割近くを占めているとのこと。そこで注目されるのが木造住宅(木の家)や木の内装、木製家具。木材の調湿機能を活かせば、省電力で快適な空間を創出できそうです。
吉田兼好の徒然草の中で「家づくりは、夏の暑さ対策を考えて作りなさい。冬の寒さは、(火で暖をとったり、厚着をするなどして)どこでも住むことができるが、夏の暑さに備えていない家は耐え難い。」(※)と説いています。
※原文:家のつくりやうは夏を旨とすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころわろきすまひは堪へ難きことなり。
※補足:人が生活空間で感じる心地よさは、温度と湿度、そして風(風速)によって、決まると言われています。この中で特に「湿度」が重要で、温度と風を調整しても、湿度が高い状態では快適さは得られないと言われています。
切り倒した直後の木は水分を多く含んでいますが、空気中にさらして置くと次第に乾燥して、含水率が15%程度になります。
そして、木材(特に無垢材)として、加工し、壁やフローリングなどの内装に使うと「木材の調湿性」が発揮されます。「木材の調湿性」とは、室内の湿度が高くなりジメジメしてくると湿気を吸収し、反対に室内が乾燥してくると放出する(湿度の変化を緩和する)性能です。この「木材の調湿性」は、結露の防止、カビの防止など、生活空間を快適にし、健康にも良いといわれています。
次のグラフは屋外の湿度(百葉箱)に対して、ビニール内装(壁紙等を張った部屋)と合板内装(内装に木を使用して部屋)の湿度がどのように変化するかを調べた実験結果です。
出典:則元京 他 木材研究資料No.111,977
合板内装の住宅で湿度がほぼ一定(約50%)に保たれていることがわかります。これは合板が湿気を吸収・放湿し、室内の湿度を変動を緩和する「木材の調湿性」によるものです。このことから、構造材や内装材、家具などに木材が豊富に使用されていると、室内湿度の変動が緩和され、快適な居住環境をつくることができると考えられます。
※木材の成分(セルロースやヘミセルロース)に、水酸基と呼ばれる水分(水分子)を引き寄せる部分があり、ここに水分が吸着したり、離れたりすることで、木材が調湿機能を持つことになります。
たとえば、8畳間程度の部屋で25℃で湿度が60%のときに室内の空気が含む水蒸気量は、厚さ4ミリで1平方メートルの広さのヒノキ板が吸収できる水分量に相当するという計算結果があります。つまり、壁や床、天井などが木材でなくても、家具や内装程度の木製品があれば、木材の調湿能力を発揮させることができそうです。
ハウスダストなど、生活空間でのほこりの中には、無数の菌が存在します。ある分析結果によると、一般的な住宅(26軒を調査)では、ほこり1グラム当たり、一般細菌数64000、4800の大腸菌、2700の黄色ブドウ状菌、2800のセレウス菌、120の緑膿菌が発見されています。
これらの菌は人や物が室内で移動する時、空中へ舞い上がって浮遊し「空中浮遊菌」と呼ばれるようになります。これらの空中浮遊菌は、80%程度の高湿や20%程度の低湿(乾燥)の環境では長時間生存しますが、中間的な50%の湿度においては大半が死滅します。次のグラフはその様子を表しています。
空中浮遊菌の生き残る割合と湿度
このように生活空間での湿度は、菌類の繁殖に関係するため、人間の生理・病気とも深く関係します。そのため掃除だけでなく、室内をなるべく高湿度や低湿度させないとも健康を保つ上で大切です。
住宅や内装、家具などに木を積極的に使えば、エアコン等の使用を控えめにしながら、快適で健康的な生活空間を創出することができそうです。
〔参考文献・出典〕
財団法人 日本木材総合情報センター「木材の基礎知識」「木と私たちの生活」/則元京 他 木材研究資料 No.11,1977/経済産業省「節電アクション 夏季の節電メニュー」/株式会社産業調査会「木材活用事典」/財団法人建築保全センター「Re建築/保全 No169」/株式会社養賢堂(左道 健 著)「木のメカニズム」/学芸出版社(左道 健 著)「木がわかる 知っておきたい木材の知識」/日本規格協会(岡野 健 著)「木材のおはなし」