地球温暖化と環境への影響
気候変動「地球温暖化」
いまを生きる私たちの世界は、人間の生産活動・経済活動によって排出される過剰な温室効果ガスによる気候変動「地球温暖化」の脅威にさらされています。世界各地で起こっている熱波や大雨による洪水、大雪による雪崩、森林火災など、森林生態系だけでなく、人命にかかわるような災害も目立つようになり、地球温暖化の脅威が身近に感じられるようになりました。
2021年8月に発表されたIPCCの第6次評価報告書によると、少なくとも今世紀半ばまでは地球の平均気温が上昇を続けると予測されています。早急に二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの温室効果ガスの排出抑制のために抜本的な対策をとらないと、地球の平均気温は、今世紀中に1.5~2.0℃上昇すると予測されています。
気候変動「地球温暖化」は、先に挙げた災害だけでなく、植生の変化、陸域・海洋生態系の変化、北極域における海氷、積雪、永久凍土の縮小、海水面の上昇などをもたらします。そして、さらなる気温上昇といった悪循環をももたらします。また、農林水産業や水の循環など私たちのライフラインに長期的な影響を及ぼすことも予測されています。
気候変動「温室効果」がもたらすこれらの影響は、いまを生きる私たちのみならず、未来を生きる次世代への大きな負債となり続けかねないことになります。
世界の平均気温の変化
地球温暖化は、人間の生産活動(経済活動)により排出した温室効果ガス(おもに、二酸化炭素 CO2)の過剰な排出による温室効果により引き起こされています。実際にはどれだけ温暖化が進んでいるのでしょうか。次のグラフは世界の年平均気温と平年値(1991年~2020年の30年平均値)との差を表したものです。
気温偏差の基準値は、1991年~2020年の30年平均値。移動平均値はそれぞれの年の前後2年分合計5年間の平均値で、気温の変化の傾向をより的確に表現しています。赤線はこの期間の長期的な変化傾向を表しています。
グラフをみると、19世紀の産業革命以降、世界全体の平年値との差が大きくなっていく傾向にあります。石炭利用の増大に伴い、大気中の温室効果ガスを排出が増大し、地球の気温は年々上昇を続けているのです。
IPCCの5次報告書(2014年)によると、世界の平均気温は1880年から2012年の期間に0.85℃上昇しており、これにより計算すると、100年あたり約0.64℃の割合で上昇していることになります。さらに、IPCCの第6次報告書では、2021~2040年の平均気温が1.5℃上昇してしまう可能性が5割程度と予測されており、何も対策を施さなければ、今世紀半ばに世界平均気温の上昇が2℃を超えてしまうと予測されています。
世界の平均気温の上昇は、人間活動による温室効果ガスの排出であり「大気中の温室効果ガス・二酸化炭素(CO2)の濃度の増大」がおもな原因となっています。産業革命以前には、CO2の平均濃度は278ppmでしたが、現在は408ppm(※)まで上昇しています(産業革命以前に比べて42%増加)。
CO2濃度が高まったおもな原因は、人間の生産活動のために、地下から化石燃料を掘り出し、燃やし続けたことです。
※温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の解析による2018年の世界の平均濃度。
今後の気温上昇の予測
IPCCの第5次報告書(2014年9月公表)によると、1880~2012年(132年間)で、世界平均地上気温は0.85℃上昇し、今世紀末には現在(1986-2005年)と比較して最大で4.8℃上昇すると予測されています。
これに伴い、北極海の海氷は縮小し、薄くなり続けることなどが予想されています。現実に温暖化の影響で北極では氷の融解が加速しており、野生動物に深刻な影響を及ぼしています。
地球温暖化の脅威
「IPCC第4次評価報告書・統合報告書概要」等によると、地球温暖化による具体的な影響(予測、可能性)として、次のような現象が挙げられています。
- 海水の熱膨張や氷河が融けて、海面が最大59センチ上昇する。
- 南極やグリーンランドの氷床が融けるとさらに海面が上昇し、肥沃なデルタ地帯や海に浮かぶ島々が水没する。
- 世界平均気温が産業革命前より1.5~2.5℃以上高くなると、調査の対象となった動植物種の約20~30%で絶滅リスクが増加する。
- 世界中で猛威をふるっているマラリアの感染地域が広がる。
- 極端な高温、熱波、大雨の頻度が増加。熱帯サイクロンが猛威を振るようになる。
- 強い熱帯低気圧が増加。激しい風雨により沿岸域での被害が増加する。
- 高緯度地域の降水量が増加し、ほとんどの亜熱帯陸域では降水量が減少する。
- 世界全体でみると、地域の平均気温が3℃を超えて上昇すると、潜在的食料生産量は低下する。
上記の他、地球温暖化による日本への具体的な影響(予測、可能性)として、次のような現象が挙げられています。
- ブナ林や亜高山帯・亜寒帯の針葉樹林の分布適地が減少する。
- 強い熱帯低気圧が増加。激しい風雨による被害が増加する。
- 猛暑日や熱帯夜が大幅に増える。
- サンゴが白化するなど生態系への深刻な影響を与える。
- 海面上昇により海岸浸食や砂浜の消失等が起こる。
- 熱波により熱中症患者が増加し、デング熱や日本脳炎が発生する。
地球温暖化による日本の森林への影響
地球温暖化がこのまま進むと異常気象の増加、生態系の破壊、熱帯病の増加や海面上昇による浸水被害などの様々な影響が懸念されています。日本の森林では次のような現象が見られたり、予測されています。
- 高山植物の減少し、これに代わって低地に生育する植物が標高の高い地域へ進出。
- ブナ林や亜高山帯・亜寒帯の針葉樹林の分布適地が減少する。2090年には日本のブナ林が存在できる適地は6割から9割減少する。
- 山岳地帯でほ乳類が標高の高い方へ生息域を広げた。
- 熱帯から亜熱帯に生息するはずのクマゼミが東日本で見られた。
温暖化の進行すると森林は衰退
現在の日本のブナ林の分布を見てみると次の通りで、温暖で夏季に降水量の少ない地域にはあまり分布していません。この特性の特性と温暖化シナリオ(CCSR)に基づいた今後の気温と降水量の予想(※)に基づき、分布範囲を予測すると次の図のようになります。
森林総合研究所「地球温暖化がブナ林とスギ人工林に与える影響の評価」より
※年平均気温3~4℃上昇、年間降水量0~700mm程度増加
2090年の予測をみると、九州、四国、中国地方、紀伊半島、関東地方のブナ林はほとんど姿を消してしまいます。日本全体で6割から9割減少すると予測されています。
また、日本の代表的な人工林であるスギ林も、予想通り温暖化が進行した場合、関東以南・以西の太平洋側に面した低標高地域のスギ林は2090年代には衰退すると見られています。また降水量が3割ほど減ると、関東平野に面する北西の地域や東北地方の太平洋側のスギ林も衰退すると予想されています。
CO2の濃度増大で光合成は促進されるのか
一般に、二酸化炭素(CO2)の濃度が上昇すると、光合成が活発に行われ、植物の成長は促進されます。しかし、CO2濃度が高くなればなるほど、森林の樹木は成長が促進されるとは限りません。つまり、限度があるのです。
例えば、シラカンバやスギの苗木を用いた実験では、二酸化炭素(CO2)濃度を高くしただけでは成長は促進されず、光合成を促進されるためには、十分な量の養分も必要であるという結果が得られています。
〔参考文献・出典〕
JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター/林野庁「森林・林業白書」