林業という仕事
林業(英:forestry)とは、森林(山林)で経済的利用を目的として、樹木を植林し、育成・管理して、林産物(主に木材)を生産する産業です。広義には山菜の採取、きのこの生産や木炭の製造なども含まれます。
畑作農業では、春に畑に種を蒔いたり苗を植えたりします。その後も肥料を与えたり、雑草を除いたり、世話をしながら育て、夏~秋に収穫します。
林業も同じように、苗木を植栽して、世話をしながら、育てて、収穫します。畑作農業は畑(耕作地)で行い、数ヶ月で収穫できますが、林業は山(=木の畑)で行い、収穫(主伐)までに50年~60年程度の年月が必要です。
苗木づくり
スギの苗木(苗畑)
日本では、山に種をまいて、木を育てるのではなく、「苗場(苗畑)」で1~3年間程度、苗木として育ててから、山に植栽(植え付け)して育てます。苗木の背丈は概ね40cmほどです。日本での主な樹種は、スギやヒノキ、カラマツで、それぞれの樹種に対して、相性の良い場所を選んで植え付けていきます。
地拵え(じごしらえ)
苗木を山に植栽(植え付け)する前には、苗木の生育環境をよくするため、雑草や灌木などを取り除く「地拵え(じごしらえ)」という整地作業をします。
地拵え(じごしらえ)は林業の中でも大変な作業ですが、木を育てる過程の中で、最初に行う重要な仕事です。苗木を植える場所を作る作業でもあることから「地あけ」とよぶこともあります。
地拵え(じごしらえ)
植栽(植林)
植林(植栽)
植栽の時期はあまり暑くない春や秋が多く、苗木は山の斜面に手作業で1本ずつ植えていきます。苗木はある程度密集させた方が、生存競争が起こるため、早くまっすぐに上に向かって伸びます。スギの場合は1ha(100m×100m)あたり3000本程度を植えます。
下刈り(下草刈り)
下草刈り(下刈り)
畑で作物の生育を妨げる雑草を取り除くように、林業でも植えられた苗木の成長を妨げる植物を除去します。これを「下刈り(下草刈り)」といいます。苗木が他の草木よりも背が高く成長するまで、概ね植栽してから5~10年までの間(スギは7年程度、ヒノキは10年程度)は、毎年行います。
下刈りは夏の時期に実施されます。不安定な足場で、刈り払い機を操作しながら、苗木を傷つけないように慎重に行わなければならない大変な作業です。
特に、スギやヒノキの苗木と他の草木は、光と水の激しい奪い合いをします。そのため、人が積極的に介入して、下刈りを行わないと、せっかく植えた苗木も雑草の陰となったり、地中の水を奪われたりして、枯れてしまうこともあります。
雑草やササが茂りやすいところでは年に2回ほど行うことがあります。下刈りと同時に、苗木の成長を助けるため、肥料などを与えることもあります。
下刈りは、雑草などが生い茂った夏場に行う作業のため、大変な仕事です。
※下刈りは、苗木以外の草木をすべて刈り払う「全刈り」のが一般的です。ただし、土地によっては、風害や塩害を防ぐために、一部分の草木を刈り取ったり残したりする場合があります(筋刈り、坪刈り)。
つる刈り(つる切り)・除伐
つる刈り(つる切り)
苗木が雑草よりも大きく成長し、下草刈りの必要がなくなっても、クズ、フジ、ツタなどのツルが幹に巻きついたり、植栽木(=苗木が苗木とは呼べない程度まで育った木)に覆いかぶさったりするため、これを取り除かなければなりません。この作業を「つる刈り」といいます。
スギの場合、植栽後10年ほどすると背丈が5m前後に成長します。この頃には、植栽木の成長を邪魔するような灌木などを伐る作業を行います。この作業を「除伐」といいます。「除伐」では雪などで曲がってしまった植栽木や、途中から折れてしまっている植栽木、成長が悪く大きく育つ見込みのない植栽木を伐る作業も行います。通常はチェーンソー(エンジンつきノコギリ)を使って行ないます。
なお、最近では、森林の持つ多面的機能(公益的機能)をより発揮させるため、「除伐」を適度に行い周囲の樹木も残して、針葉樹と広葉樹が共存する針・広混交林へ誘導していくことも推奨されています。
枝打ち
枝打ち
植栽してから10~15年経つと苗木は、4~8m程度まで成長して、枝もついてきます。この枝はまわり木と重なりあい、放っておくと林の中が暗くなってしまったり、枯れた枝などから害虫が侵入しやすくなります。そこで枝を付け根から切る「枝打ち」という作業を行います。枝打ちをする時期は、樹木の成長が止まる秋~冬にかけて行われます。枝打ちした箇所(=幹から枝が生えていた部分)は、樹木が成長するにつれて覆われていき、やがて枝の跡がわからなくなります。枝打ちをすることにより、将来、節が少なく、まっすぐな優良な木材となります。
枝打ちを実施することによる効果
- 高級材の生産…枝打ちにより、植林木の成長量や年輪幅を制御できるので、年輪幅が狭く揃った高級材を生産できる。また、無節の高級材を生産できる。
- 防虫効果…枝打ちにより、枯れ枝が除去され、枯れ枝に産卵する害虫の侵入を防ぐことができる。
- 鳥獣被害の防止…林内の見通しがよくなることで、野生鳥獣の隠れ家が減り、ニホンジカなどによる林業被害を防ぐことができる
- 国土保全…林床に光が届くようになり、下層植生が豊かになり、土砂災害等の山地災害を防ぐことができる。
しかし、今ではあまり枝打ちは実施されなくなりました。林業の現場では、木材価格の低迷や人手不足等の理由により、枝打ちまでする余裕がないためです。また、建築様式や消費者のニーズの変化により、無節材などの高級材の需要が少なくなったことも理由です。
間伐
間伐
植栽、下刈り、枝打ち、除伐と保育作業を行って来た植栽木は、競争しながら、まっすぐに育っていきます。順調に成長し、20~30年くらいたつと、林の中は混み合ってきます。混み合ったまま放置しておくと木々は、ひょろひょろともやし状となり、病害虫にも弱い木となってしまいます。そこで、「間伐」と呼ばれる間引き作業を行い、林内環境を良くして、樹木が健康に育つようにします。植えた木の本数を減らす代わりに、残された木が健全に育つように手を入れるわけです。
間伐もチェーンソーを使って行ないます。間伐をすることにより、地面に日光が差し込み、土壌分解が促進されるため、さまざまな草や木が新たに生えてきます。それを食料とする昆虫や鳥が生息するようになるなど、生物の多様性が向上します。また、地中の根もしっかりと張り巡らされ、台風や大雪、土砂災害などに強い森林となり、山林保全・国土保全にも結びつきます。。
かつては間伐された木は杭や蒔や炭、割り箸などの原材料として利用されていました。しかし、現在では搬出コスト等の関係で採算が合わず、有効的な利用がなされず、山に放置される間伐木も多くなりました(伐り捨て間伐)。
なお、間伐を一度に大量に行うと、風通しがよくなり過ぎて、台風などの強風に弱い森林になってしまいます。そのため、1回に間伐する量は30%程度にとどめ、これを数年おきに繰り返すことが理想ですが、林業不況のなかで、適切な実行は難しくなっています。
なお、植栽してから、間伐までの期間を「保育(期間)」とよぶことがあります。
主伐
主伐
スギの場合、植栽後50年前後で柱や板の材料となれるだけの太さまで育ち、収穫の時期を迎えます。地域によってはより太く高品質の木材に仕立て上げるため、100年前後まで待つ場合もあります。何度か間伐を繰り返し、最終的に行われる伐採を「主伐」といいます。主伐の後には、次の植栽の準備を行います。
一定区間にある木をすべて伐採する皆伐の他、部分的に伐採して跡地に苗木を植え、樹木の世代交代をはかりながら収穫していく方法があります。昔はのこぎりや斧を使っていましたが、今はチェーンソーを使って根元から伐り倒したり、高性能林業機械で行なうこともあります。
※チェーンソーを使って伐り倒す場合、まず倒す方向を選び(倒したとき他の木にぶつからない方向)、根元にくさび型(∠)の切り込みを入れます。次にその反対側から切り込みを入れます。その切り込み部分に楔(くさび)を打ち込むと、木は自らの重みで反対側のくさび型の切り込みを入れた方へ倒れこんでいきます。
造材・玉切り
玉切り
伐採された木(原木)は、山の麓に設けられた集積場(土場)に集められて、枝葉や根元付近の曲がった部分を切り除き、利用しやすい長さに切り揃えられて(=玉切りされ)、丸太になります。
搬出・運搬
木材の搬出
伐採(収穫)した丸太は、ケーブルなどで吊して山から林道まで運び出されたり、ウインチで引っ張ったりして搬出されます。最近では高性能林業機械を使うケースも多くなりました。
その後、丸太は積み下ろし機などで集められて、トラックに積み込まれ、原木市場や貯木場へ運ばれます。貯木場では、各種用途に合わせて選別・仕分けをした上で、製材工場へ送られていきます。
貯木場
原木市場や貯木場へ運ばれた木材は、各種用途に選別、仕分けされ、競りで製材業者に買われます。最近では、原木市場等を通さず、山から直接、製材工場に運搬される流れもあります。
以下、製材工場から住宅建築までの流れです。
製材から住宅建築まで
製材・乾燥(製材工場)
製材工場では、まず丸太の外皮を取り除き、四角い形に加工します。その後、職人が一つ一つ木のクセを見ながら製材していきます。製材が終わると、木材は乾燥機に入れて水分を適切なレベルまで取り除きます。最後に表面を滑らかに削り、目視や機械で検査を行ってから出荷されます。
加工(プレカット工場)
次に、どの木材を建物のどの部分に使うかを決め、「適材適所」を見極めながら、プレカット工場で加工します。ここでは、CADマシンを使って自動的に切断や切削、穴開けを行った後、手作業で仕上げの調整を行います。
組み立て(建築現場)
加工された木材は、建築現場で設計図に基づいて組み立てられます。柱や梁は垂直を確認しながら調整し、接合部分はしっかりと固定します。
木材になるための育成林(人工林)の木は、もともと使うために育てられているんだよ。育成林の木は、世界遺産となっている森林や身近な公園などの「保護すべき木」、「伐ってはいけない木」とはまったく別のものなんだ。
育成林の木は、植えて、育てた後、収穫(伐採)しなければ、次の世代の木を育てることができない。春に田植えをしたら秋に収穫をするのと同じことなんだよ。収穫しなければ作物は野放しになり、畑は荒れ、次の田植えができない。木材になるために育てられている木々も、40~50年という年月をかけて、成熟したら、そこで収穫して、次の世代の木々を育てる場所をつくる必要があるんだ。
林業は農業と同じように苗木を植え、育て、収穫期には伐採する。そして植える…というサイクルで成り立っているんだよ。森林は木の畑なんだね。
日本には、約1000万ヘクタールの育成林があるんだ。そして、育成林で育った木々を有効に利用するには、多くの人たちに木材を使ってもらう必要がある。そのためには、日本国内だけでなく、海外への輸出も視野に入れることも大切なんだ。そして木材産業をより活発にするための研究や調査、普及活動も必要なんだよ。
〔参考文献・出典〕
全国森林組合連合会・社団法人全国改良普及協会「緑豊かなみらいのために 森林整備を進めよう」/熊本県林政課「熊本の森林林業・森林を活かす」/全国森林組合連合会「MidoriPress」/旭川流域林業活化センター「山は伐ってもいいですか?」/社団法人国土緑化推進機構「森林のはなし」/林道研究会 林野庁整備課「新しい山村を創る 林道」/全国林業改良普及協会「林業新知識/わかりやすい造林・育林講座」/IPA教育用画像素材/私の森.jp写真部