森林生態系の原動力 光合成
植物は何も食べなくても成長できる
植物は光合成により、ブドウ糖をつくり、それをエネルギー源として生命活動を行っています。また、根から地中の養分(窒素など)を取り込み、アミノ酸をつくり、アミノ酸を組み合わせて、成長に必要なタンパク質や脂肪、ビタミンなどもつくりだしています。
このように植物はアミノ酸とタンパク質、脂肪やビタミンなど、健康に生きていくために必要な栄養素を自分でつくるしくみを持っているので、何も食べずに成長することができるのです。
※人間は身体の中ではつくることができないアミノ酸があります。これを必須アミノ酸といい、植物から摂取しなければ生きていけません。同様にほとんどのビタミンも人間の身体の中ではつくることができません。
光合成は植物の優れた働き
植物は太陽光を浴びて「光合成」を行いながら成長します。光合成に必要なものは二酸化炭素と水と光。私たちの身の回りに当たり前のように存在している物質と太陽の光です。光合成は、どこにでもあるような原料を使って、すべての生物のエネルギー源となるブドウ糖を生産しています。
科学が進歩した現代でさえ、光合成を人工的に完全に再現させることは困難といわれてきましたが(※)、植物は数億年前から光合成を行なっており、身近に生えている雑草ですら、光合成を行なっていることは驚きです。
私たちは光合成について、詳しく知る機会はあまりないと思います。しかし、科学の世界では植物の驚異的な優れた働きといわれています。
※2010年代には、植物の太陽エネルギー変換効率を超えるほどの人工光合成が再現され、実用化に向けて動き出しました。
身近な雑草ですら光合成を行なっている
森林生態系の原動力は光合成
自動車や機械など何かが動くためには、原動力(ガソリンや電力などのエネルギー)が必要です。同じように、すべての動植物が生命を維持し、成長していくためにも、エネルギーが必要です。
森林(生態系)では、動物や植物が成長したり、活動したり、微生物が枯死木や動物の遺体や排泄物を分解しています。森林生態系の中でも動植物をはじめ、さまざまなものが動き、活動し、変化しているため、原動力(エネルギー)が必要です。
森林生態系の原動力は、植物の光合成です。光合成によってつくられる「ブドウ糖」がエネルギー源となります。「ブドウ糖」は私たち人間をはじめ、すべての生命のエネルギー源となっています。
※私たちが病気で入院したりすると、しばしば点滴を打たれます。点滴を受けるときにぶら下がっている袋には、「ブドウ糖(英語名:グルコース)」と書かれています。点滴は入院中の「エネルギー補給」といえるでしょう。
植物は葉の気孔から吸収した二酸化炭素と根から吸い上げた水を原料として、太陽エネルギーと葉緑素のはたらきでブドウ糖をつくり、酸素を放出します。葉でつくられたブドウ糖はデンプンとなり、水に溶けやすい物質となって、体の各部に運ばれて、呼吸や成長に使われたり、果実や根、茎などにたくわえられます。
※地球上の酸素はすべて植物や微生物などの光合成生物によりつくられてきました。
財団法人 日本木材総合情報センター・全国木材協同組合連合会「木が守る地球と暮らし」をもとに作成(加筆)
光合成の式
光合成を(化学的な)式にすると次のようになります。
光合成でつくられるブドウ糖(C6H12O6)の中には太陽から得た光エネルギーが取り込まれています。ブドウ糖は人間をはじめ、動物や植物が活動するための生命のエネルギーの源です。
※上記の式は光合成のすべての過程(入口と出口)を1つにまとめたものです。光合成をより詳しく見ると、複数の反応式から構成されます。大別すると、最初に太陽の光エネルギーを吸収して化学変化がおこる「明反応」と、次に二酸化炭素からブドウ糖を合成する「暗反応」の2つの過程があります。
現代の人間社会の原動力も光合成
植物の体内では、ブドウ糖が根から取り入れた地中の微量の無機物(窒素、リンなどの肥料分)と結合し、蛋白質(たんぱく質)、デンプン、脂質など、より複雑な有機物になります。そして、植物は自らつくった有機物を養分にして成長します。その植物を草食動物が捕食し、その草食動物を肉食動物が捕食し、有機物とそこに蓄えられたエネルギーは生物間を伝わっていきます(食物連鎖)。
このように、光合成は、植物自らの栄養となるだけでなく、動物の糧となり、生態系を支える原動力となります。すべての生命活動は、とどのつまり太陽光をエネルギー源として営まれます。しかし、植物以外の生物は太陽光を直接的にエネルギー源として利用することができません。光合成は太陽エネルギーを有機物に変換して、生命活動のエネルギーを生態系に取り込む入り口といえるでしょう。
ところで、石油や石炭などの化石燃料も、数億年前の植物や動物の死骸が蓄積されてできたものです。つまり化石燃料は光合成によってつくられた有機物が姿を変えたものです。結局は、現代の人間社会の生産活動の原動力(エネルギー源)も植物などの光合成生物に依存していることになります。
植物の呼吸と純生産量
植物が成長するなど、生きて活動するためのエネルギーは、光合成によって有機物(ブドウ糖)の中に取り込まれた太陽を源とするエネルギーから得ています。植物は自らの活動エネルギーを自らつくっていることになります。そして、有機物からエネルギーを取り出す作用が呼吸です。呼吸では酸素を吸収し、有機物を分解し、二酸化炭素を放出します。
このように植物は光合成によって有機物をつくりますが、一方では、呼吸によって分解します。しかし、通常は光合成によってつくられる有機物量の方が大きいため、植物は成長します。光合成によってつくられる有機物と呼吸によって分解される有機物の差を「(有機物の)純生産量」といいます。これは植物の成長量に相当します。