なぜ紅葉するのか

秋になるとイロハモミジやナナカマド、ハゼノキなど、さまざまな木の葉が赤く色づきます。これは、葉の中にある緑色の色素(クロロフィル)が分解され、代わりに赤色の色素(アントシアニン)がつくられるためです。なぜこのアントシアニンがつくられるのか、順を追って見ていきましょう。

紅葉したハゼノキの写真

ハゼノキ(東京都文京区 礫川公園)

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夏のあいだの葉のはたらき

葉の中には、緑色の色素クロロフィル(葉緑素)があります。クロロフィルは太陽の光を取り込み、そのエネルギーを使って光合成を行います。光合成によって作られた炭水化物(栄養分)は幹に運ばれ、樹木の成長や生命活動に使われます。

同時に、葉の細胞には「カテキン」という無色透明の物質が含まれています。カテキンは紫外線を吸収して、葉を傷つけるのを防ぐ、いわば「日傘」のような役割を担っています。

夏は日照時間が長く、気温も高いため、光合成が活発に行われます。その結果、クロロフィルは増え、葉はより濃い緑色になります。

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秋に向かうときに起こる変化

秋になると日照時間が短くなり、気温も下がるため、光合成の効率が落ちてきます。葉を維持するために必要なエネルギーを光合成から十分に得られなくなるため、やがて落葉する準備に入ります。

落葉の前には、葉から再利用できる栄養分(アミノ酸など)を幹に回収するという大切な作業が行われます。しかし、その時期にもまだ太陽の光は当たるため、クロロフィルが余計なエネルギーを持て余してしまいます。すると、余分なエネルギーによってスーパーオキシド(活性酸素)という有害物質がつくられ、葉の細胞やクロロフィル自体を傷つけてしまうのです。

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葉を守るために赤くなる

そこで活躍するのが、赤色の色素「アントシアニン」です。もともと紫外線だけを吸収していたカテキンが、秋になるとアントシアニンに変化して、紫外線以外の太陽光も吸収するようになります。こうしてクロロフィルが余計なエネルギーを受けとりすぎないように調整し、有害なスーパーオキシドができるのを抑えるのです。

さらに、アントシアニンには、できてしまった活性酸素を通常の酸素に戻すはたらきもあります。こうしてアントシアニンは、葉に残るわずかな期間でも栄養分を回収できるように、葉やクロロフィルを守っているのです。

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赤い葉が深まる理由

気温の低下とともにアントシアニンの量は増え、葉の赤色がどんどん濃くなっていきます。一方、すでに光合成が弱まったクロロフィルは分解されていき、その一部はアミノ酸となり、幹に回収されていきます。こうして赤く染まった葉は、やがて落ちる前に栄養を最後までできるかぎり回収し、冬に向けて樹木を準備させるのです。

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春に再び緑が戻るしくみ

冬を越した樹木は、幹に蓄えていたアミノ酸を利用して、春になると葉を再生します。そこからまたクロロフィルが作られ、光合成が活発になり、緑の葉が生い茂るのです。

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まとめ

秋に紅葉するのは、緑色のクロロフィルが分解される一方、葉を守るための赤色のアントシアニンが増えるからです。アントシアニンは余分な太陽光エネルギーを吸収し、活性酸素の発生を抑えることで、落葉までの短い間に葉を守りながら栄養分を回収しやすくします。こうして樹木は冬に備え、翌春には再び新しい葉を展開して成長を続けるのです。

私たち人間にとって、紅葉は秋の風物詩ですが、植物にとっては、いわば「かき入れ時」の繁忙期なのかもしれません。

ちいさい秋みつけた

「ちいさい秋みつけた」の作詞者サトウハチローは、昭和12年秋、上野・桜木町から向ヶ丘弥生町に転居しました。家の庭にははぜの木が植えられ、仕事部屋からよく見えたとのこと。童謡「ちいさい秋みつけた」は、この深紅に染まったはぜの枝葉を眺めて作詞されました。昭和30年の秋のことでした。ハチローの没後、旧宅は記念館に改装されて、遺稿や愛用品は展示されましたが、平成7年には閉鎖され、残された「はぜの木」は、木の延命を図るため5本の枝を残し切り株状にして、東京文京区春日の礫川公園に移植されました。樹齢は約80年。こちらのページトップの写真がその「はぜの木」。毎年深紅の枝葉が「ちいさい秋」を語り伝えてくれるようです。

誰かさんが 誰かさんが
誰かさんが みつけた
小さい秋 小さい秋
小さい秋 みつけた
むかし むかし 風見(かざみ)の鳥の
ぼやけた とさかに はぜの葉一つ
はぜの葉 赤くて 入日(いりひ)色
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見つけた

〔参考・引用〕東京都文京区春日一丁目 礫川公園

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