山地災害と林業の衰退

日本各地で目を見張るような山地災害が起きています。環境対策とともに国土を強くする対策が必要です。

山地災害と林業の衰退

2019年9月台風15号の強風により、溝腐病(みぞぐされびょう)のスギが次々と倒木。電線を切断し、大規模停電が起こった(千葉県山武市)。


2018年の北海道胆振東部地震では、民家が巻き込まれる大規模な土砂災害が発生した。


2014年8月20日、広島市北部で、豪雨により大規模な山崩れが発生し、住宅地を直撃した。


日本各地で目を見張るような山地災害が起きています。 2014年の8月豪雨による広島市の土砂災害、 2018年の北海道胆振東部地震による山腹崩壊、 2019年には、台風15号の強風で千葉県の溝腐れ病の山武杉が多数倒木し、大規模な長期停電が発生…。国土や森林を維持できないほどの、地震や極端な気象現象が起こっています。

国際的な地球温暖化防止の取り組みとともに、強い国土を造成する対策が求められています。


森林の持つ国土保全機能

森林には、多くの公益的機能があり、その一つが国土保全機能です。これは土砂災害や土砂の流出を防止したり、土壌を保全する機能です。この機能を発揮させるためには、森林が健全に保たれるように管理する必要があります。特に人の手で育てたスギやヒノキなどの人工林は適切に管理しないと荒廃してしまい、公益的機能が発揮されなくなります。


人工林は人の手で育成する

人間が赤ちゃんを生んで、育てている子を途中で育児放棄すれば、その子は、心身ともに健全な大人にはなれないでしょう。子が病気に罹っていることにも気がつかず、死んでしまうかも知れません。

人工林は、人が山を開拓し、スギやヒノキを植林して育てているため、「育成林」とよばれます。つまり、人工林は人が生み出した森林です。人間の子と同じように人が世話をしないと、荒廃してしまいます。森林も育成放棄をすれば、健全に育たず、森林の機能が低下してしまうのです。

例えば、適切に間伐等の保育を行わないと、林床(森林の地面)に光が当たらず、風通しも悪くなり、下草も育たず、土壌の保全機能が低下し、山崩れ等の山地災害が起こりやすくなります。また、気候変動と相まって、森林に菌類が繁殖しやすい環境となり、山武スギのように病気が蔓延し、台風で倒木しやすくなることも考えられます。


林業の活性化に向けて私たちができること

しかし、現在は林業が衰退しており、森林の世話をすることができず、放置されている森林も目立ちます。いわば「森林の育成放棄」です。間伐や主伐をしても、原木(丸太)価格の低迷のため、伐っても採算がとれないからです。

例えば、直径30cm、長さ4mのスギ。これはちょうど電柱のようなイメージです。これだけのスギを育てるのに、概ね50~60年かかります。しかし、価格は1本あたり3000円~4000円程度です。同じ体積で比べると、大根1本よりもはるかに安い値段です。50年かけて育てても、1年で収穫できる大根よりも安いのであれば、林業従事者の意欲が低下することは無理もありません。林業は衰退し、森の手入れが行き届かず、荒廃し、結果として、災害に弱い山となってしまうのです。国土を保全するためには、さまざまな対策がありますが、その一つとして、林業を活性化することが挙げられます。

木材価格は、輸入材の影響を大きく受けています。日本林業を活性化し、国土を保全するために、私たちができることは、スギやヒノキ、カラマツなどの日本の木からつくられた製品を積極的に選択し、購入し、利用することです。住宅を建てるときには、国産の木材で建てることで大きく貢献します。つまり、森林を整備するための資金が山に還元されることになるのです。


温暖化防止のために私たちができること

北海道胆振東部地震の山腹崩壊や広島市の土砂災害の原因は、土石流やがけ崩れなどの土砂災害が起こりやすい土壌であったためといわれています。しかし、悠遠の昔から保たれてきた山林が、現代において崩壊するということは、気候変動(地球温暖化)による極端な気象現象も原因であることも否めないでしょう。最近は、台風等で過去の記録を大幅に塗り替える雨を降らせています。国土が維持できないほど、環境が変わってしまったのです。

地球温暖化は、産業革命以降の人間の経済活動により、大気中の二酸化炭素 CO2濃度が増大してしまったことが主な原因です。森林は大気中のCO2を吸収し、樹体内に炭素の形で固定します。これは、木材になっても、燃やさない限りは固定されたままです。そのため、収穫期を迎えた森林を伐採し、木材として利用すれば、温暖化防止に貢献していることになりますし、伐採地に苗木を植えれば、旺盛に成長する若い木が大気中のCO2を吸収し、温暖化防止につながります。そのため、私たちが木を使うと環境貢献していることになるのです。


〔参考文献・出典〕
国土地理院地図/ANNnewsCH・報ステ