日本国内では年間200億膳もの割り箸が使われている。しかし、その97%は海外から輸入されたもの。ほとんどは中国製
日本は「木の文化」を持つ国、そして、割り箸を生み出した「割り箸の文化」を持つ国でもあります。割り箸を「割る事」は、祝い事や神事などの「事をはじめる」という意味を持ち、大事な場面にいつも真新しい割箸が用意されてきました。
箸そのものは聖徳太子の時代に「箸食制度」が取り入れられましたが、最初に「割り箸」が登場したのは江戸時代の寛政12年(1800年)頃と言われています。江戸時代の割り箸は「引裂箸(ひきさきばし)」と呼ばれ、杉から作られていたと言われています。この引裂箸は吉原の有名な茶屋や高級料理屋で使われていたようです。
日本人が生み出した割り箸
現在使われている割り箸は、明治時代に、吉野(奈良県)で樽(たる)材として使っていたスギの端材(樽の製造過程で必要な部分を切り取ったときにできる余った木片など)を有効に活用することから生まれたものです。
今でも、日本製の割り箸は、丸太から建築用材などを切り取ったときにできる端材や残材、間伐材(※)を使ってつくられ、割り箸をつくる目的で伐採される木はありません。
一方、海外では、木材価格が非常に安いため、原木をすべて割り箸に加工します。
※間伐とは、植林後10年ほど経つと隣の木の枝がぶつかり合い、お互いに成長を妨げてしまうため、間引きする作業です。間引きするために伐られた木を有効活用するためにつくられた材が間伐材です。最近、輸送コスト等の関係で採算がとれず、間伐された木は山にそのまま置き去りにされ、せっかくの資源が有効活用されていないケースが目立つようになりました。また、間伐さえ行われずに放置され、荒廃している森林も少なくありません。
現在、日本国内では年間200億膳もの割り箸が使われていますが、実はその97%は海外から輸入されたもの(ほとんどは中国製)です。そのため、国内の割り箸工場数は平成5年には359工場ありましたが、年々減少し、平成21年現在では99工場になっています。
なお、工場数の減少に伴い、日本国内の割り箸製造業に携わる労働者も減っており、平成元年には約4000人でしたが、平成17年には450人に激減しました。
国内の割り箸の生産量は奈良県(82工場)が最も多く、全体の約7割を占めています。次いで石川県(1工場)が約1.5割、北海道(7工場)が約1割を占めています。
割り箸の店頭小売価格は元禄箸で、日本産(国産材使用)が1膳3円程度、中国産は1円程度となっており、両者の価格差は大きくなっています。また、中国産はアスペンやシラカバ、竹を原料としたものが多く、日本国内では、中国と競合しない杉や桧(ヒノキ)の比較的高級感のある天削(てんそげ)箸や利休箸が主体となっています。
割り箸だけでなく、木材も輸入材におされ、日本の木材の自給率は2割まで落ち込んでいます。林業は衰退し、山村の高齢化が進み、林業の担い手がおらず、手入れできずに荒廃している森林も少なくありません。
間伐後、利用されず置き去りにされた伐採木
割り箸に限らず、間伐材を有効活用することは、資金を山に還元し、森林整備を促進することにつながります。
また、日本は京都議定書で、温室効果ガス排出削減目標値の6割以上に相当する3.8%(約1,300万炭素トン)を森林による二酸化炭素の吸収で達成する計画になっています。しかし、上記の理由などで健全な森林が不足し、その達成が危ぶまれています。
間伐材の積極的な利用は、山村を活性化し、森林整備を促進するとともに、地球温暖化防止にもつながるのです。
割り箸は使い捨てのイメージが強く、もったいないというイメージを持たれています。しかし、割り箸は本来そのまま捨てられるはずの端材や残材、森林整備で生じた間伐材を有効に活用することから考案された言わば「アイデア商品」です。日本の木材の消費量全体に占める割り箸の割合は1%にも満たず、量的には多いものではありません。また、割り箸が使うサイクルが短い分、国産材を使った国内産割り箸が普及すれば日本の森林と山村を、継続的に経済的に支えることのできるアイテムの一つになり得ると考えられます。
コンビニエンスストアや外食チェーン店で、国産の建築端材や間伐材を原料とする割り箸を調達する取り組みが始まっています。
ミニストップ/5円の木づかい
デニーズは、森林資源の有効活用を考え、1997年から年間で約4,000万膳使う割り箸は全て吉野杉の建築端材を利用しています。また、ナチュラルローソンでは2004年から、ミニストップでは2006年から同様の取り組みを始めています。
また、北海道洞爺湖サミット(2008年7月)では、来日した参加国の政府関係者が使う割り箸に国産材スギの間伐材が使われました。間伐材を有効活用した割り箸は、健全な森林の育成につながるため、日本が環境に配慮する姿勢を国内外にアピールしました。
〔参考文献・出典〕
創森社「割り箸が地域と地球を救う」/環境三四郎「割り箸から見た環境問題」/日本林業調査会「林政ニュース」