椈(ブナ ぶな)
ブナ科ブナ属
北海道(黒松内低地線)から本州、四国、九州に分布
ブナはその雄大で美しい姿から森の女王といわれます。ブナの林に風が通り抜けるとき「ブ~ン」という音がすることから「ブーンと鳴る木」→「ブナの木」→「ブナ」がその名の由来です。一方、材としての利用が難しいことから役に立たない「ぶんなげる木」という不名誉な説もあります。
ブナは雄大で美しい姿から
「森の女王」と言われる
葉は波状になり、側脈は7~11対。裏面は淡緑色
果実は10月頃熟して割れる。1.5cmほどの堅果が2つ
樹皮は灰白色で滑らか。地衣類がまだらにつく
ブナは「森の女王」
松之山美人林のブナの新緑(新潟県)
雪が解け、明るく、柔らかい日差しが差込む春の季節になると、落葉広葉樹林のブナ林の林床(森の地面)にはスミレやカタクリなどのたくさんの花が咲き始めます。すると花の蜜を吸うために、ハチやアブ、チョウなどの昆虫が集まり、それを捕食するために鳥たちがやってきて、森の一年が始まります。
夏には清々しい新緑に包まれ、森林浴やハイキングのために人がやってきます。ブナの森を歩くと、その林床はふかふかしたやわらかいスポンジのようになっています。 ブナの森の土壌には、雪や雨の水をたっぷりと貯えてられています。いわば「緑のダム(天然のダム)」です。さらに、ブナは水分を好み、土壌からたくさんの水を吸収するためにしっかりと根を張ります。このため、大雨や台風に見舞われても、洪水や土砂災害などから、森(国土)が守られ、私たちの生活も守られています。
さらに、この緑のダムの役割をしている森林の土壌は、いわば「ろ過装置」となって、透明・無垢な水を少しずつ湧き出し、森に恵みを与えてくれます。
ブナの果実
秋の実り季節になるとブナは、たくさんの果実(堅果)をつけます。ブナの実はたんぱく質や脂肪分が多く、栄養価(カロリー)が高いため、リスやネズミ、クマなど森の動物たちの大好物です。人間もブナの実を炒って食べることができます。 ブナの実は、7年に一度くらいの割合で、大豊作の年を迎えます。森の動物たちが食べきれず、実を残すほどの量になるので、翌年、発芽する数が増え、子孫を残すことができるのです。たくさんのブナの実を得た森の動物たちも子がたくさん産まれます。するとワシやタカなどの猛禽類の数も増えます。しかし、翌年はブナの実りの数が平年並に戻っているので、動物たちの数もやがてもとに戻っていきます。森の生態系は、リズムを奏でるかのようにバランスが保たれているのです。
このようなことから、ブナの森は「豊かな生態系といのちを育む母なる森」といわれます。そして、ブナはその雄大で美しい姿から「森の女王」とよばれています。
森の女王/受難の時代
近年の加工技術の進歩により、ブナ材は家具材やツキ板として使われるようになった
ブナには、「受難の時代」がありました。戦後、役にたたない木として、大量に伐採されたのです。ブナは保水力のある土壌を好み、幹にも水分を多く含むため、材が柔らかく、腐りやすく、狂いが大きいため、当時の木材加工技術水準では、建築材として利用できる木材にはなりませんでした。ブナは漢字で、木偏に「無」と書きますが、見方によっては「木で無い」とも読めます。
そのため、ブナの代わって、スギやヒノキなど建築用材として利用できる苗木が植えられました。いわゆる「拡大造林」です。拡大造林は全国規模で行われ、ブナ林は次々と人工林に置き換わりました。当時のことを「ブナ退治」などと表現する人もいるくらいで、ブナにとっては受難の時代でした。
伐り倒されたブナ
森の女王の栄誉/白神山地のブナ林が世界自然遺産として登録
白神山地のブナ林
現在、拡大造林の時代とは正反対にブナは大切にされる時代になりました。1993年に日本初のユネスコ世界自然遺産に白神山地のブナ林が登録されたのです。 白神山地では、原生的なブナが、ほとんど人の手が入らずに世界最大級の規模で分布しており、ツキノワグマやニホンカモシカなどの大型哺乳類や84種の鳥類が棲息して、豊かな生態系を保っていることが世界自然遺産に選ばれた理由です。 世界遺産はいわば「人類が持つ宝」です。世界の人々に日本のブナ林が知られることになったのです。
〔参考文献・出典〕
新建新聞社 「日本の原点シリーズ 木の文化」/一般社団法人全国森林レクリエーション協会「子ども樹木博士ニュース」/学習研究社「日本の樹木」/日本木材総合情報センター「木net」