樅(もみ、モミ)
マツ科モミ属
本州(主に中南部)~四国、九州、屋久島に分布(身近な低山から深山の尾根部に生える)
モミの名は、風にもみ合うところから「揉む」を語源とする説、神聖な木で、信仰の対象となっていことから「臣木(おみのき)」を語源とする説など、いくつかあります。
ドイツ語に「schlank wie eine Tanne」という言葉があります。これは「モミの木のようにすらりとした」という意味で、モミの樹形が端正で姿が美しいことを表しています。
伊賀野のモミ
(推定樹齢400年)
モミの樹形は美しい円錐形。高さは20~30mになる
葉は2本に分かれてとがる。成木の葉はくぼむ。長さ2~3cm
5月頃になると枝先にかわいい花をつける
モミ実は熟すと翼のある種子が風に乗って飛んでゆく
樹皮は鱗片状に剥がれ落ちる。
若い木ほど平滑
モミ材は、蒲鉾板など食べ物が直接触れる材として最適
クリスマスツリーでお馴染みの「もみの木」
美しい円錐形の樹形のウラジロモミは、日本のクリスマスツリーのメイン樹種です。
クリスマスツリーでお馴染みのモミの木。日本のクリスマスツリーとして、使われているモミの木は「ウラジロモミ」と呼ばれる種類が多いようです。「ウラジロモミ」は「モミ」とは別の木です。
本場ヨーロッパのクリスマスツリーとして使われている木は主に「ドイツトウヒ(アカモミ)」で、日本でもしばしば使われています。ちなみに、アニメ「アルプスの少女ハイジ」に登場するアルム山小屋の裏の大きな「もみの木」は、この「ドイツトウヒ(アカモミ)」がモデルになっているとのことです。
民謡「モミの木」で歌われているのは「ヨーロッパモミ(シロモミ)」で、こちらもクリスマスツリーとしてよく使われています。
「モミ」と「ウラジロモミ」の違い
「モミ」と「ウラジロモミ」の違いは、葉の裏を見るとわかります。2本の白いスジ(気孔帯)が目立つのが「ウラジロモミ」、葉の裏が白っぽいのがモミです。
ウラジロモミは、葉の裏が白色で綺麗なことに加え、葉の表は光沢がある鮮やかな緑色であること、美しい円錐型の樹形になることなどから、クリスマスツリーとして好まれて使われるようです。
なお、「ウラジロモミ」は「モミ」よりも寒冷な気候を好みます。
大気汚染、シカ被害…モミの木にとっては苦難の時代
モミの林は、主に本州の中南部以南で、点々と見られます。モミの木は他の樹種とともに生育していることが多いようで、シイやカシ、ナラキ,イヌブナなどと混交している林がしばしば見られます。また、モミ・ツガ林といわれるように、山地にツガとともに天然林をつくっていることもあります。
モミはその姿が美しいことから庭園樹などにも使われ、神社の境内などでもみかけます。モミの樹高は20~30mにもなります。
長野県霧ヶ峰高原のモミの木
しかし最近、モミの木の衰弱が目立つようになりました。モミの木は、デリケートで大気汚染や煙、暑さに弱い樹種です。また、山地では、シカにより樹皮をかじられて、赤く立ち枯れているモミの木も目立つようになりました。長野県の諏訪地域では、大径木で御柱に用いられるような大きなモミの木が野生鳥獣の被害を受けてしまっているとのことです。
白く清浄なモミ材は日本人好み
モミの木にとっては生育環境が厳しくなってきたようですが、モミ材は、白色や淡い黄色で、白い木材の好きな日本人の好みに合うため、古くから身のまわりの生活用品に用いられて来ています。調湿性に優れ、抗菌性があるにも関わらず、特別な臭いがありません。そのため、おひつや寿司桶、そうめんの箱、かまぼこの板、米びつ、割箸など食品に接するものにも多く用いられます。食材に匂いが付かず、余分な湿気を吸収し、抗菌性があるため、食べ物が直に触れる木材として適しているのです。
また、白木のままで清浄な感じの木材が神聖な感じを与えるということで、冠婚葬祭に関連した道具用にもよく使われています。また、木目が真っ直ぐに通り、切削などの加工も容易なので、建築材をはじめ、障子の枠やふすま、家具や包装箱、卒塔婆(そとうば)にもよく使われています。
悪臭を消すモミ
モミ材で作った家は、無臭だが消臭作用や抗菌作用などの働きが発揮されている(写真:日本ISJ研究所)
最近の研究で、日本のモミの精油成分にはさまざまな効果があることがわかってきました。そのひとつが悪臭を消す作用。内装などにモミ材を使った部屋ではタバコの匂いが消え、壁にモミ材を使ったトイレではトイレ臭がなくなることが確かめられています。
モミ材の内装やモミ材で作った家には、ヒノキやスギ、ヒバのような特有の香りはありません。しかし、私たちの鼻には感じなくても、モミ材の持つ消臭作用や抗菌作用などの働きが発揮されているのです。
一般に普及されている消臭剤や芳香剤は、香りの成分が拡散し、悪臭の成分に覆いかぶさり、臭わなくしたり、感じなくするメカニズムになっています。一方、モミをはじめ、樹木や葉に含まれている精油成分は、悪臭と化学的に反応し、悪臭物質自体をなくしてしまう(別の物質に変えてしまう)メカニズムになっているのです。中和、酸化などの化学反応がより深く関係しているといわれています。
ホルムアルデヒドを除くモミ
現代は化学合成物質が世の中に氾濫し、環境や人体に影響を与えることが指摘され、社会問題になっています(※1)。その物質のひとつに「ホルムアルデヒド」があります。接着剤や塗料、防腐剤などの成分で毒性の強い物です。
空気中に高い密度で拡散している場合、呼吸器系、目、のどなどの炎症を引き起こし、皮膚や目などがホルムアルデヒドの水溶液(ホルマリン)に接触した場合は、激しい刺激ともに炎症を生じます(※2)。
このホルムアルデヒドを除去する働きはスギやモミの木の葉の精油成分に多く含まれていることが、最近の研究でわかってきています。
※1:環境や人体に影響を与えることが指摘されている物質のうち揮発性のものは、VOCと呼ばれています。VOCの例として、塗料に由来するトルエンや殺虫剤に由来する塩素化合物などがあります。VOCの中でも人体に対して急性的に毒性がある物質が「ホルムアルデヒド」です。
※2:現在は、政府によりホルムアルデヒドの使用濃度について、厳しい制限が設けられています。
〔参考文献・出典〕
茨城県教育委員会/小学館「葉で見分ける樹木」(林将之著)/学習研究社「日本の樹木」/日本文芸社「樹木図鑑」(鈴木庸夫著)/自然をつくる植物ガイド(林業土木コンサルタンツ)/日本木材総合情報センター「木net」