拡大造林とは|戦後の人工林造成
戦後(1950年代〜1970年代)に行われた人工林の大規模造成
拡大造林(かくだいぞうりん)とは、おもに広葉樹の森を針葉樹中心の人工林に置き換える森林造成のことです。伐採跡地への造林をはじめ、里山の雑木林、さらには奥山の天然林などを伐採し、代わりにスギやヒノキ、カラマツ、アカマツなど成長が比較的早く、経済的に価値の高い針葉樹の人工林に転換しました。
昭和20~30年代(1945~1970年頃)にかけて始まり、15~20年の間に現在の人工林総面積(約1000万ha)のうち約400万haがこの拡大造林で造成されたとされています。

スギやヒノキを中心に造成された人工林は、戦後日本の森林政策の象徴
拡大造林の背景と目的
戦後の日本では、復興や高度経済成長によって建築用木材の需要が急増しました。天然林の供給では追いつかず、安定した木材供給源として人工林の造成が国策として推進されました。国・都道府県・森林組合・個人所有者が一体となり、荒廃した山地や伐採跡地に大量の針葉樹を植林する事業が行われました。
拡大造林の実施と特徴
項目 | 内容 |
---|---|
時期 | 1950年代~1970年代 |
目的 | 木材資源の確保、はげ山・荒廃地の緑化 |
主な対象 | 天然林・雑木林・奥山の森林 |
主な樹種 | スギ、ヒノキ、カラマツ、アカマツなど |
主な主体 | 林野庁、都道府県、造林公社、森林所有者など |
拡大造林の成果
人工林蓄積の増加と森林資源の充実
拡大造林によって、日本の森林資源は飛躍的に増加しました。特に、スギやヒノキといった針葉樹の植林が進められたことで、人工林の蓄積量は大幅に増加し、木材生産の基盤が確立されました。こうした森林資源の充実により、日本は世界有数の森林蓄積を有する国となっています。
国土の緑化と多面的機能の回復
戦後の荒廃した山地やはげ山に大規模な植林が行われたことで、国土の緑化が進みました。これにより、斜面の保護や土砂災害の抑止、水源の涵養といった森林がもつ多様な公益的機能も回復・向上し、国民生活の安全や環境保全に大きく貢献しました。
拡大造林後の問題点
生物多様性の低下と森林構造の画一化
造成された人工林の多くは、単一の樹種(特にスギやヒノキ)で構成され、植栽や育成も一斉に行われたため、森林の構造が画一的になりました。このような人工林では、生態系の多様性が乏しく、病虫害や風倒木被害への耐性も低いという弱点があります。
再植林が行われない「皆伐跡地」の増加
伐採後に再植林が行われない「皆伐跡地」の増加も深刻な課題です。これは、木材価格の低迷により伐採後の収益がほとんど見込めないことや、再造林にかかるコスト・労働力の確保が困難なことが主な要因です。所有者の高齢化に伴う山林管理意欲の低下も、放置を助長しています。
間伐・保育作業の未実施と森林の荒廃
本来、健全な森林の育成には間伐や枝打ちといった保育作業が不可欠ですが、多くの人工林では十分に実施されていません。これは林業従事者の減少と高齢化、管理コストの高さ、木材単価の安さなどが背景にあり、結果として森林の成長が妨げられ、荒廃が進行しています。
造林公社と未利用債務の課題
拡大造林の推進にあたっては、国の補助制度を活用し、都道府県などが設立した造林公社が中心的な役割を果たしました。造林公社は、将来の木材供給を見据えて荒廃地や伐採跡地に計画的な植林を進め、森林資源の充実や国土保全に大きく貢献しました。
しかしその後、木材価格の長期的な下落や林業経営環境の変化などにより、当初見込まれていた収益を得ることが難しくなりました。このため、公社が事業資金として調達した借入金の一部が償還できないまま残る「未利用債務」と呼ばれる課題が各地で生じました。これらの債務については、各自治体や国による対応が進められ、現在も整理や再建が進められています。
このような経験は、将来に向けて森林政策をより持続可能な形で展開していくうえで、経済的・制度的な視点の重要性を再認識させるものとなっています。拡大造林が果たした役割を振り返りつつ、今後は多様性と持続性を備えた森林づくりへと、社会全体で取り組んでいくことが期待されます。
海外との比較と未来への展望
韓国や中国でも同様に拡大造林が行われましたが、目的や植栽環境は異なり、日本のような天然林からの転換はあまり見られません。ヨーロッパでは多様な樹種の混交林づくりが行われており、日本でも今後は生態系の多様性に配慮した混交林や多層林の導入が課題とされています。
また、人工林を教育・観光・市民活動など多目的に活用する「森林サービス産業」への転換も模索されています。
拡大造林は、戦後の木材需要に応えるべく進められた大規模な森林政策でした。結果として、日本の森林蓄積は世界でも有数の水準に達しましたが、その一方で生態系の単純化や森林管理の困難化など、多くの課題を残しています。
今後は、拡大造林によって形成された森林資源を持続的に活用しつつ、多様で健全な森林環境を次世代へとつないでいくことが求められています。