桐の箪笥
日本の暮らしに息づく伝統家具
桐の箪笥(きりのたんす)は、軽くて加工しやすい木材「桐(きり)」を用いて作られた収納家具で、日本の伝統的なタンスの代表格です。日本では古くから、湿気の多い風土に適した家具として重宝されてきました。

桐の箪笥
娘の成長とともに育つ桐の木
かつて日本では、女の子が生まれると庭に桐の木を植えるという風習がありました。桐は成長が早く、20年ほどで家具に適した大きさに育つとされ、娘が嫁ぐときにその桐を伐ってタンスに仕立て、嫁入り道具として持たせるという美しい慣習があったのです。これは、親から子への愛情と祝福の象徴とも言えます。
桐材の優れた性質
桐の木材は、空気を多く含んだ構造で非常に軽く、断熱性や調湿性に優れています。さらに、タンニンという成分を多く含むため、防虫・防腐効果が高く、着物や大切な衣類を長く安全に保管するのに最適とされています。
また、火に強いという特徴もあり、火災の際に燃えにくい性質を持つことから、貴重品の収納にも適しているとされてきました。
現代における桐の箪笥の魅力
現代では住宅事情や生活様式の変化により、婚礼家具としての需要は減少していますが、桐の箪笥は今なお高級収納家具として根強い人気を誇ります。美しい木目、伝統技術による精緻な仕上げ、そして機能性の高さから、着物愛好家や伝統工芸品としての価値を見直す人々に選ばれています。
また、桐の箪笥はリフォームや修繕がしやすく、何世代にもわたって使い続けることができる「一生ものの家具」として、サステナブルな視点からも注目されています。
桐の箪笥は、日本の気候風土や生活文化の中で育まれてきた知恵と技術の結晶です。機能性と美しさ、そして世代を超えて受け継がれる文化的価値を兼ね備えた家具として、今後もその魅力は受け継がれていくでしょう。