皆伐とは
森林を構成する林木を全部伐採
森林の一定範囲の樹木(林木)を一度に全部または大部分を伐採すること。
森林資源を持続的に利用していくためには、計画的な伐採と再生が不可欠です。日本では、スギやヒノキといった人工林の蓄積が成熟期を迎えつつあり、それらを伐採し、新たな世代の森林へと更新していく作業が重要になっています。
その中心となる手法が「皆伐(かいばつ)」です。
皆伐とは?
皆伐とは、ある一定の区画内にある木を一斉にすべて伐採する方法です。特に人工林(人の手で植えられ育てられた森林)で行われることが多く、木材の収穫を目的とした伐採であると同時に、森林を次の世代に更新するための作業でもあります。
皆伐の結果、伐採地は一時的に裸地となりますが、その後に植林や天然更新を通じて森林が再生されることで、持続的な森林経営が実現されます。
皆伐の種類
● 全面皆伐(ぜんめんかいばつ)
区画全体を一度にすべて伐採する方法です。作業効率は高い反面、地表がむき出しになるため、土砂流出や生態系への影響が大きくなるというデメリットもあります。
● 帯状皆伐(たいじょうかいばつ)
区画を帯状に分け、段階的に伐採していく方法です。1回目に伐採した帯の隣に次回の伐採帯を設定し、数年にわたって伐採を進めます。風害や土壌流出を抑えやすく、更新もスムーズです。
● 群状皆伐(ぐんじょうかいばつ)
小さな島状(群状)に伐採を行う方法で、パッチ伐(patch cutting)とも呼ばれます。周囲の木が風を遮り、苗木や天然更新を守る効果があります。
3. 皆伐の方法(作業形態)
● 機械伐採
ハーベスタやフォワーダといった高性能林業機械を使い、伐採・枝払い・搬出まで効率的に行います。大量伐採に向いていますが、作業道の造成や地面への影響も大きくなります。
● 人力伐採
チェーンソーなどを使った伐採で、急傾斜地や小規模施業に適します。環境負荷は比較的小さく、熟練の技術が必要です。
● 地拵え(じごしらえ)
伐採後、再植林に向けて枝葉や切株の整理、地表の整備を行う作業です。再造林の準備として不可欠です。
皆伐の利点と課題
皆伐にはいくつかの利点があります。まず、対象となる森林を一括して伐採できるため、木材の収穫が非常に効率的に行えます。また、伐採後に一斉に植林を行うことで、樹木の年齢や成長が揃った「同齢林」が形成され、間伐や保育といった森林管理作業がしやすくなります。さらに、同じ条件の木が揃っていることで、将来の伐採や更新の計画も立てやすく、森林経営全体の見通しを立てやすいという利点もあります。
一方で、皆伐には課題も少なくありません。森林全体を伐採することで地表がむき出しとなり、土壌の流出や乾燥が進みやすくなるほか、生物多様性にも大きな影響を及ぼします。また、突然の景観の変化や、樹木がなくなることで風の通りが変わり、風害や獣害のリスクが高まることもあります。さらに、皆伐後に再植林が行われない場合、その土地は森林として再生されず、長期間にわたって「裸地」のまま放置されてしまう恐れもあります。
再造林されない皆伐跡地の現状
日本では近年、皆伐後に再植林が行われず、放置される伐採跡地が増加しています。林野庁の報告によると、年間約9万haの主伐が行われていますが、そのうち再造林されるのは約3万ha程度、つまり再造林率は約30〜40%にとどまっています。
▽ なぜ再植林されないのか?
- 木材価格の低迷で伐採収益が少なく、再造林費用が捻出できない
- 植林・保育作業の人手不足
- 所有者の高齢化や山林管理の意欲低下
中には、皆伐後に太陽光パネル設置などの土地転用が目的となっている例もあり、森林の持続可能性にとって大きな課題です。
一方で、大分県佐伯市などでは再造林率が85%を超える地域もあり、地域ぐるみで森林循環を実現する取り組みも進んでいます。
持続可能な皆伐のあり方
現在、皆伐の方法も見直されつつあります。全面皆伐から群状・帯状皆伐への転換や、再植林だけでなく天然更新を促す工夫、さらには針広混交林への転換も進められています。
林野庁や地方自治体は、「森林整備事業」や「J‑クレジット制度」などを通じて、皆伐後の再造林や森林管理の支援を強化しています。
皆伐は、森林資源を活かし、将来の森を育てるために欠かせない手法です。しかしその一方で、環境への配慮や再造林の徹底がなければ、森林は一度伐られたまま再生されない危険性もあります。
適切な方法とタイミングで行い、再植林や保育とセットで計画することで、皆伐は「壊す」のではなく「次につなぐ」行為となります。私たち一人ひとりが、森のいまと未来に目を向けることが、持続可能な森林づくりの第一歩です。
〔参考文献・出典〕
林野庁「再造林の推進」/有限会社三和林業ホームページ/FOREST JOURNAL/宮城県公式ウェブサイト/山口県公式ホームページ